2004年11月30日火曜日

旅の果て

 苦労して鋼鉄の扉を開けると、強く冷たい風に身体を押し戻された。扉の向こうには無彩色の世界が広がっている。俺は足元の感触を確かめながら踏み出した。
 もはや当初の目的が何であったか、忘れてしまった。しかし、この場所に立った今、俺は確かに満足している。ゆっくりとあたりを見回しながら深く息を吸い込み、途端に嘔吐した。風は冷たいのに、吸い込んだ空気は熱く生臭い蒸気のようだ。嘔吐は長い間止まらず、緑色の粘液が灰色の大地にボダボダと落ちる。
 どうにか吐き気が治まると臭気を吸い込み過ぎないよう慎重に呼吸しながら歩き始めた。彼方に一羽の鳥が延々と旋回をしている。それを目指してひたすらに歩いた。いくら歩いても景色は変わらないが、少しづつ大きくなる鳥の姿で前進を確認する。鳥の足元には人がいるに違いない。そう確信すると胸が激しく高鳴なり声が漏れる。「母さま…!」その言葉を口にした自分自身に何より驚きながら、俺は堪らず駆け出した。

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500文字の心臓 イラスト超短篇投稿作