2004年11月25日木曜日

住宅街の夜

バスを降りると、もどかしそうにコートのポケットから煙草とライターを取り出す。
焦っているのか、手がかじかんでいるのか、なかなか火が着かない。しくじる度に「チッ」「チッ」とせわしなく舌打ちする。
そのみすぼらしい背中を照らしながら、バスは去る。
「やーね、重症のニコチン中毒オヤジ」
あたしは心の中で毒づいた。
必要以上に多い街灯は、影は増やすが星を減らす。
オヤジの影はあちらこちらにいくつも伸び、忠義な影たちはオヤジの動きを模倣する。
やっと火が着いたオヤジは「ふう~」とも「はあ~」ともつかない声をあげ、煙を吐いた。
煙は後ろを歩くあたしの肺を汚した。煙の影はキラリと光って街灯に吸い込まれた。
オヤジの影は一層濃くなった。