2004年5月31日月曜日

三太の問わず語り

おいらは由緒正しい泥棒の家の生まれでござんす。
親父もそのまた親父もコソドロでござんした。
忘れもしない、三年前のお月さんの綺麗な晩でござんした。
おいらは親分の家にコソドロしに行ったんでござんす。
ほんの一万ポンドル札を頂こうと。エエ。
親分の財布は膨らむほど金が入ってござんした。
おいらは悩みました。
「もう一枚、盗んでいこうか」と。
その様子を親分は全部ご覧になっていたんでござんす。
親分は「気の小さい泥棒である。財布ごと持っていけばよいものを」と言いやした。
おいらは言い返すことができやせんでした。
「せっかくだから一杯やろうではないか」
おいらと親分は意気投合して、飲み明かしやした。
親分は泥棒に興味があるようでござんした。
「おいらが泥棒のイロハを教えましょか」と言うと
親分は頭を深々と下げて「お願いする」と言ってござんした。
これがおいらと親分の運命の出会いでござんす。

2004年5月30日日曜日

ダイヤを手に入れろ!! 後編

「あった、これである。2222年度ダイヤ改訂表」
「……やりやしたな、親分」
「さっそくメッセージを」
さらさらさらのさらり
翌朝。
「駅長、三太と中井が来たらしいですよ」
「なになに?『ダイヤはたしかに頂戴した。ついては2222年2月22日午後2時22分発の特急ニシキ、二号車に-2席の切符の便宜を図られたし。大泥棒サンタとナカイ』だとさ。ちゃんと代金が入ってるぞ」

2004年5月29日土曜日

ダイヤを手に入れろ! 前編

「三太、拙者はどうしても手に入れたいものがある」
「当ててご覧にいれやしょう。……ダイヤ。やっぱり大泥棒を名乗る者としてはダイヤは外せねえ」
「その通りである。計画はすでに綿密に立ててある」
「さすが親分」
「ダイヤをいち早く手に入れれば、アレをとるのも可能である」
「ダイヤの他にも何か盗るんでござんすか」
「見ていればわかる」
午前一時、三太と中井は駅に向かった。もちろん唐草スカーフは忘れない。
「親分、駅に来てどうするんでございやすか」
「駅でいただくのが確実だからである」
「ダイヤと言ったら金持ちか宝石店と相場が決まっているでござんしょ」

2004年5月28日金曜日

狙うは大邸宅! 後編

「へい、親分。・・・まいごのまいごのこねこちゃん♪」
「おい三太」
「へい」
「他の歌はないのか」
「おいらはこの歌のほかは子守歌しか知りませんで」
「ならよい。拙者も歌おう」
わんわんわわーん わんわんわわーん
「枯れ葉、全部盗っちまいやしたね」
「では、メッセージを残しておこう」
さらさらさらのさらり
翌日驚いたのはお手伝いさん。
「奥様!ご覧になってくださいませ。お庭が」
「まぁ。ずいぶん綺麗になったこと。一体どなたが?」
「置き手紙がありますわ、奥様」
「枯れ葉はすべて頂戴した。ついては午前11時から焼き芋の宴を催す。是非参られたし 大泥棒サンタとナカイ」
「ぜひ参りましょう。おきぬ、あなたも支度して。昨日届いたさつまいもを持っていきましょう」

2004年5月27日木曜日

狙うは大邸宅! 前編

三太と中井は大泥棒を名乗っている。
スーツ姿に地下足袋を履き、唐草模様のシルクスカーフを頭にかぶって、あっちさんやらこっちさんやらの家に入る。
今夜の狙いは大邸宅。広い庭つきのお屋敷に、おばあさんと忠義なお手伝いさんだけが住んでいる。
「失敬する」
「おじゃまでござんす」
三太と中井は礼儀正しいので挨拶をして家に入る。
もちろん小声でだけれども。
「さて、今日は何を頂戴いたすでこざんすか。中井の親分」
「そうだな・・・枯れ葉だ」
「承知いたしやした」
ガサガサガサガサガサガサ
「おい三太」
「へい親分」
「盗みは静かにやらねばならぬ、と教えたのはおまえではないか」
「でも親分、枯れ葉は音が出るでござんす」
「左様か。ならば枯れ葉の音を隠すために歌を歌いたまえ」

2004年5月26日水曜日

鰐の登場に湾岸は沸いた。
そこにいる男も女も皆、ワクワクとしているようである。
わたしには訳がわからず、ワトソンくんに聞くと僅かに顔を歪曲させた。
わたしにはワトソンくんが笑ったのかどうかもわからなかった。
鰐が通ってできた轍に鷲が群がるさまは、なぜか猥雑な光景だった。
男も女もこれを期待していたのか。

2004年5月25日火曜日

ローマ ロサンゼルス ロンドン ロッテルダム ローザンヌ ロードス島
世界地図の上で蝋燭を傾け、ロウが落ちた六箇所。
ローラースケートを履いたロックフェラー老人は
その地の路地で狼藉をはたらく。
おかげで牢屋は大繁盛。

2004年5月24日月曜日

レギュラー缶コーヒーにレモン型のレッテルが貼られ、レッドで何か書かれている。
解読できるのは「れたす」。
レタス?それとも、0+?
これには何か歴史的意味があるのだろうか?それとも僕は何かの黎明期の最中にいるのか?
だれかレクチャーしてくれよ。違う、呼ぶのはレスキューだ。
ダ レ…タス ケテ

2004年5月23日日曜日

流刑囚の留守宅に累累とルビーと瑠璃が積もっている。
それを見つけたのは近頃涙腺のゆるいルンペンだった。彼はルーペでルビーと瑠璃を観察すると、涙を浮かべながら
「ルビー(るびぃ)と瑠璃(らぴすらずり)を見つけました」
とルビを振った手紙を付けてルクセンブルグにあるルーブル美術館に送り付けた。
ルーマニア人の館長は「ルネサンス期のルミノール反応が認められる」と大喜びだ。

2004年5月21日金曜日

利発なリーダーは理想の陸橋を造ろうと力んでいた。
力学立体立面図、リスク利点料金領収。
タイムリミットはリンゴの収穫期。
なのに、理屈を力説するばかりのリーダーにみな御立腹。

2004年5月20日木曜日

落語の好きなライオンはランドセルに落花生をつめて楽園を目指していし、羅生門でラッパを吹くラクダはランチのラザニアを食べる。だから乱暴者はラメ入りの一張羅を着てラッキョかラーメンを食べればいい。

2004年5月19日水曜日

よりによってヨーグルトとヨダレで汚れたのを寄越すなんて。
たしかに一番若いのって、要求したよ?
こっちは余所行きの装いでよろしい夜を過ごす予定だったのに。
淀んだ目で見るな、よちよち歩くな、横にくるな、パパって呼ぶな。
よっこらしょ。よしよし、よい子だ。

2004年5月18日火曜日

ゆゆしき事態だ、とユキダルマは思った。
夕暮時、家々から漏れる湯気に当たっても
歪みも緩みもしないだなんて。そろそろ融解してもよいのに。
ゆっくり雪解けとともに溶けていくはずだのに。
ユキダルマはゆりかごに揺られながら夢をみている。

夕焼け小焼け

夕焼けのお空が食べたい、と言うと祖父は古びたカメラを空に向けた。
「明日のおやつまでの辛抱だ。できるかい?」
と祖父は笑い、ネガを載せたガラスの器は冷凍庫にしまわれた。

茜色したアイスキャンデーの味はとうに忘れた。
あのときの祖父のカメラはいくら探しても出てこない。
おいしそうな夕焼け空を最後に見たのは、いつのことだったろう。


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突発性企画「こおる」参加作品

2004年5月17日月曜日

やわらかいヤドカリに体をあずけて休むと、闇がやってくる。
ヤドカリはヤキモチ焼きだから、やきもきするかもしれないが
やがて疫病神も野次馬もやり過ごせるようになるはずだ。
やっぱりふたりきりで山羊を焼くのはやりがいがあるからね。

2004年5月16日日曜日

もしも もっと もう一度
毛布に潜り問答を繰り返す木曜日の真夜中

2004年5月15日土曜日

迷惑な迷宮へようこそ。わたくしめを召使と思ってお使いください。この眼鏡をかければ迷宮を目一杯楽しむことができます。めまいがひどいのが面倒ではございますが。迷宮内には珍しい品がめくるめく現れます。その命名をあなたは任されます。さあ、まずはこの品物ですよ。
私は命名した。
「メランコリックなメロディーを瞑想するメザシ」

2004年5月13日木曜日

むっつのムカデの足をむしり、皮を剥き、結び、蒸す。
それをむしゃむしゃと食べた息子はムカムカとむせてお迎えがきた。
なんて無茶なことを。

2004年5月12日水曜日

見栄が未練となり、未練が道となり、道は未来を見限る。
水を満たした桶に蜜柑を三つ浮かべれば、それは御輿となって見限られた未来、或いは未知の世界へと導いてくれる。

真夜中の摩天楼の間に間にまんべんなく饅頭が蒔かれている。
まやかしなどではないよ。
だけど、まばゆい朝日にまたたくまに巻き上げられるのは眩しすぎる光景だから
マントヒヒでも目の当たりにすることができないだけさ。

2004年5月11日火曜日

ぼんやり坊やは帽子に乗って冒険にでかけた。
ボタボタと雨に打たれたり、ほのぼのと日の光を浴びたり、ボサボサと風に飛ばされたり、傍若無人にボコボコにされたりもした。
ついに坊やは某寺に到着した。
菩薩像の衣にボタンを一つ縫い付けると「ボチボチだな」と呟いて没した。
墓石には「釦菩薩紡帽子坊」とある。

2004年5月9日日曜日

別居中の便器に弁当の弁償をせまられ、ベトベトとベソをかく弁護士。

2004年5月8日土曜日

ブリーフを穿いた豚は武器を捨て舞踊を始めた、と鰤見聞録にある。鰤の文は不細工なので不審である。

2004年5月7日金曜日

ビスケットを噛り微笑するビキニの美人をビンの中に入れて持ち歩く比丘が一人。

2004年5月6日木曜日

博打打ちのばあさんがバイクをバキバキ言わせて向かったのは化物の墓場。
化物の魂がバサバサ飛んでるからばあさんの心臓バクバク。
あぁ、そうか。バンド仲間だったバクの墓参りに来たんだね。
ばあさんは墓の前でバチンと手を叩いてバクが好きだったバナナをバクバク食べてバイバイって言ったあと、今度は本当にバッタリ倒れた。
あの世で獏に馬鹿されて爆笑したってさ。

2004年5月5日水曜日

ホウキボシってのは、放浪星だ。ほどけた包帯をぶら下げたままほっつき歩いてるのさ。
捕獲するときには包帯を掴んじゃいけないよ。
包帯が全部ほどけて骨がむき出しになると星は滅びちまうんだ。
もしうまく捕獲できたら保存にも気をつけなきゃいけない。
方形の法螺貝に入れて北西の方角に保管する。
そうすればホイッスルが鳴って放出、なんてことはないからね。

2004年5月2日日曜日

まがったヘソと理屈っぽい屁と偏した頭痛とへっぴりな腰と下手な糞がひとつの部屋で隔てなく平穏に暮らしている。

2004年5月1日土曜日

不眠症の覆面男が布団を踏んづける。「ふざけるな」
踏まれた布団の中では芙蓉の顔が太いフランスパンを振り乱しフラフラになっているよ。
なんて不埒な。