「ここのピーマンは肉詰め専用です」
とピーマン農家のおじさんが言った。
「肉が詰まった品種なのです。突然変異でできました。わが家はピーマンの肉詰めをよく食べるので大助かりですよ」
ピーマン農家のおじさんは愉快そうに笑ったがちっとも愉快ではない。
収穫した肉入りピーマンでピーマンの肉詰めを焼く。
焼くだけでいいから、楽と言えば楽だが、切るときの感触はなんともグロテスクである。
そうしてできあがったピーマンの肉詰めの並んだ大皿を眺めていたらアレをやりたくなった。
神経衰弱。
2004年2月27日金曜日
白菜
「白菜、もっと入れようよ」
「今入れたばっかりだよ」
「でも、入ってないぞ。んじゃ、おまえ全部食べたな」
「違う、違う。俺も白菜食べたいと思ってたところなんだ」
「わかったわかった。また入れればいいんだから」
「おい、白菜誰か食ったか?」
「俺じゃねぇ」
「おれも違う」
「でも、なくなってるぞ」
「本当だ。さっき残り全部入れちまったぞ、白菜」
「おれ、全然食べてないのに」
「俺だって」
「じゃあ、どうしてなくなってるんだよ」
「しらねぇよ」
「まぁまぁ、幽霊が食べたものと思って」
「犯人はおまえか!」
「裏切り者」
「ち、違う。誤解だ」
当たり。私が食べました。だから喧嘩はやめてね。
「今入れたばっかりだよ」
「でも、入ってないぞ。んじゃ、おまえ全部食べたな」
「違う、違う。俺も白菜食べたいと思ってたところなんだ」
「わかったわかった。また入れればいいんだから」
「おい、白菜誰か食ったか?」
「俺じゃねぇ」
「おれも違う」
「でも、なくなってるぞ」
「本当だ。さっき残り全部入れちまったぞ、白菜」
「おれ、全然食べてないのに」
「俺だって」
「じゃあ、どうしてなくなってるんだよ」
「しらねぇよ」
「まぁまぁ、幽霊が食べたものと思って」
「犯人はおまえか!」
「裏切り者」
「ち、違う。誤解だ」
当たり。私が食べました。だから喧嘩はやめてね。
2004年2月26日木曜日
2004年2月25日水曜日
2004年2月23日月曜日
2004年2月22日日曜日
2004年2月21日土曜日
2004年2月20日金曜日
2004年2月18日水曜日
2004年2月17日火曜日
2004年2月16日月曜日
2004年2月14日土曜日
2004年2月13日金曜日
2004年2月12日木曜日
2004年2月11日水曜日
大根
大きなボウルに山盛りの大根おろしを前に途方にくれている。
実は私はイライラすると大根をおろしてしまうのだ。
単純動作の繰り返しと、おろし金の感触と音が、私の気を休めてくれるらしい。
大抵は大根半分もおろせば気が済むのだが、今日は気が付くと五本もおろしていた。
大したことがあったわけではない。
ただ張り切ってミニスカートで、デートに出かけたら、某巨大交差点の真ん中でカエルのように転んでしまい、
その瞬間をたまたま来ていたテレビカメラに生放送で流されてしまった、というだけだ。
大量の大根おろしをどうして食べていいのか、わからない。
「なます」にしても食べきれないかもしれない。
大根おろしを「おすそわけ」するわけにもいかない。
だんだんトゲトゲしいものが胸に溢れてきた。
私は財布に手をのばした。まだ八百屋は開いているはずだ。
実は私はイライラすると大根をおろしてしまうのだ。
単純動作の繰り返しと、おろし金の感触と音が、私の気を休めてくれるらしい。
大抵は大根半分もおろせば気が済むのだが、今日は気が付くと五本もおろしていた。
大したことがあったわけではない。
ただ張り切ってミニスカートで、デートに出かけたら、某巨大交差点の真ん中でカエルのように転んでしまい、
その瞬間をたまたま来ていたテレビカメラに生放送で流されてしまった、というだけだ。
大量の大根おろしをどうして食べていいのか、わからない。
「なます」にしても食べきれないかもしれない。
大根おろしを「おすそわけ」するわけにもいかない。
だんだんトゲトゲしいものが胸に溢れてきた。
私は財布に手をのばした。まだ八百屋は開いているはずだ。
2004年2月10日火曜日
2004年2月7日土曜日
2004年2月6日金曜日
2004年2月5日木曜日
アスパラガス
アカリは魔女。まだ修行中の11歳。
アカリの一族は身の回りのものを食べ物に変える術を大切にしているんだ。
この地方では昔、「キキン」と言って、畑の作物が取れなくて、おなかをすかせて死んだり、病気になることがよくあったんだって。
だから村の人を助けるために、食べ物に関係のある魔法がたくさんあるんだよ。
あたしがいま一番得意なのは「ロウソクをアスパラガスに変える術」。
火のついたロウソクに呪文をかけるの。
呪文は覚えにくいし、あんまりカッコよくない。
「つけにせひのほげらっぱ」
そうするとロウソクは緑のアスパラガスに変わっちゃう。
大きくておいしいのよ。今度ごちそうしてあげるからね。
でもさ、アスパラガスも大事だけど、ロウソクも大事でしょ。
だからちょっと困ってるの。
アカリの一族は身の回りのものを食べ物に変える術を大切にしているんだ。
この地方では昔、「キキン」と言って、畑の作物が取れなくて、おなかをすかせて死んだり、病気になることがよくあったんだって。
だから村の人を助けるために、食べ物に関係のある魔法がたくさんあるんだよ。
あたしがいま一番得意なのは「ロウソクをアスパラガスに変える術」。
火のついたロウソクに呪文をかけるの。
呪文は覚えにくいし、あんまりカッコよくない。
「つけにせひのほげらっぱ」
そうするとロウソクは緑のアスパラガスに変わっちゃう。
大きくておいしいのよ。今度ごちそうしてあげるからね。
でもさ、アスパラガスも大事だけど、ロウソクも大事でしょ。
だからちょっと困ってるの。
2004年2月4日水曜日
2004年2月3日火曜日
ほうれん草
「もう、限界なの」
私は相手の顔を見ずに言った。
視線の先にはほうれん草のおひたし。
小さな陶器に盛られたおひたし。
この器はふらりと寄った陶芸作家の個展で見つけたのだった。
ちょっと高いけど、ひとめで気に入った。
目の前の男と私の分、へそくりで買った。
それ以来、おひたしはこの器、すっかり食卓の定番になった。
別れてもこの器は手放さないようにしなくては。
私はそんなことを思いながら、ほうれん草に向かって静かに別れの訳を語り続けた。
「言いたいことはよくわかった」
男もまた、私の顔を見てないだろう。
男は未練がましくいいわけをしているようだ。
黙ってほうれん草のおひたしを食べる。
話を聞いてくれたのは、ほうれん草。
私は相手の顔を見ずに言った。
視線の先にはほうれん草のおひたし。
小さな陶器に盛られたおひたし。
この器はふらりと寄った陶芸作家の個展で見つけたのだった。
ちょっと高いけど、ひとめで気に入った。
目の前の男と私の分、へそくりで買った。
それ以来、おひたしはこの器、すっかり食卓の定番になった。
別れてもこの器は手放さないようにしなくては。
私はそんなことを思いながら、ほうれん草に向かって静かに別れの訳を語り続けた。
「言いたいことはよくわかった」
男もまた、私の顔を見てないだろう。
男は未練がましくいいわけをしているようだ。
黙ってほうれん草のおひたしを食べる。
話を聞いてくれたのは、ほうれん草。
2004年2月2日月曜日
2004年2月1日日曜日
衝撃
オレはやわらかいトンネルの中にいる。匍匐前進。ゆっくりゆっくり進む。
もう何十時間もこうして少しづつ進んでいる。どこへ向かっているのか、わかっている。でも、わかっていないのかもしれない。
頭が窮屈で痛い。とにかく狭いトンネルなのだ。頭でトンネルを押し広げながら進むしかない。
時折、トンネル全体がひずみ、身体中が締め付けられる。こんな痛みは初めてだ。気が遠くなる。それでも進むのをやめるわけにはいかない。
前方にかすかな光を感じ、オレはやや元気を回復した。とにかくあそこまで行けばいいのだ。
だんだんと光は大きくなってきた。しかし、それに伴い頭痛もひどくなっていく。「もう、だめだ」
今度こそ本当に気を失う、と思ったそのときオレは光の射す方へと一気に押し出された。強い光と冷たい空気がオレを突き刺す。さっきまでオレがいた、薄暗く暖かな世界とは大違いだ。
オレはこれからこんな世界で生きていくのか!
恐れ戦いたオレは、あらんかぎりの大声で泣き叫んだ。
オレの渾身の叫びを聞いて喜んでいる女がいる。
********************
500文字の心臓 第34回タイトル競作投稿作
○1
もう何十時間もこうして少しづつ進んでいる。どこへ向かっているのか、わかっている。でも、わかっていないのかもしれない。
頭が窮屈で痛い。とにかく狭いトンネルなのだ。頭でトンネルを押し広げながら進むしかない。
時折、トンネル全体がひずみ、身体中が締め付けられる。こんな痛みは初めてだ。気が遠くなる。それでも進むのをやめるわけにはいかない。
前方にかすかな光を感じ、オレはやや元気を回復した。とにかくあそこまで行けばいいのだ。
だんだんと光は大きくなってきた。しかし、それに伴い頭痛もひどくなっていく。「もう、だめだ」
今度こそ本当に気を失う、と思ったそのときオレは光の射す方へと一気に押し出された。強い光と冷たい空気がオレを突き刺す。さっきまでオレがいた、薄暗く暖かな世界とは大違いだ。
オレはこれからこんな世界で生きていくのか!
恐れ戦いたオレは、あらんかぎりの大声で泣き叫んだ。
オレの渾身の叫びを聞いて喜んでいる女がいる。
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500文字の心臓 第34回タイトル競作投稿作
○1
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