今夜は派手な夜空である。日中は花粉やら黄砂やらで酷く霞んでいたのに、この満天の輝く星はどういうことだ。美しいには違いなく、口をあんぐり開けたまま夜空を見上げて歩いていたら、さもありなん電信柱に激突した。思わず蹲り、痛みを堪えていると天から大笑いが聞こえてきた。謀ったな、星々め。
2023年4月26日水曜日
#春の星々140字小説コンテスト 「明」投稿作
ここはあまりにも透明で、呼吸を忘れるほどに美しい。そうだ、忘れたのではない。ここは水中なのだ。デクレシェンド。酸素を探しながら、そっと息を吸う。私は魚になってしまったのかしら。いいえ、だってこうして大勢の観客を前にピアノを弾いているもの。私の音色は水に溶け、遠く遠くへ泳いでいく。
2023年4月17日月曜日
#春の星々140字小説コンテスト 「明」投稿作
何もしないと決めた日曜日、椅子に座り部屋に入る日差しをただただ見ていた。部屋は思った以上に刻々と変化する。春の明るい日差しを感じながらハムレタスサンドを食べた。西日に照らされて輝く埃を見て、掃除したくなるのをぐっと堪える。電気も付けず暮れるのに任せていると月が笑うのがよく見えた。
2023年4月11日火曜日
風が強いので宣伝
強風で古傷がスゥと痛む。傷跡から紙の尻尾がはみ出る。引っ張り出す。「ぅぐ」毎度の事だが、かなり痛い。紙片には手書きで文字が書いてある。読みやすいとは言えない。4枚目にして大昔に存在したケッタイな本屋の話だとわかってきた。続きは次の強風で。
2023年4月7日金曜日
風が強いので宣伝
橋の下に看板を拾いに行く。風に飛ばされた看板の吹き溜まりがあるのだ。飛ばされた看板はなぜか小さい。かつては堂々としていたであろう看板を摘み上げてはポケットに突っ込む。金属製の看板には要注意だ。手を切る。猫に引っ掻かれたのとそっくりの傷だ。
2023年4月4日火曜日
#春の星々140字小説コンテスト「明」投稿作
日が長くなってきた。日課の夕方散歩も自然と距離が伸びる。商店街を二つ抜け、右へ曲がり、左へ曲がり、もはや知らぬ街である。西日がやけに明るい。影が伸び縮みしている。はしゃいでいるようだ。よくない兆候。私はすぐ影を逃してしまうのだ。おや、なかなか日が沈まないぞ。影がスキップを始めた。
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