2019年11月30日土曜日

薬が無効

「我が家は代々続く医者です。この町で長く、消えず見えずインクの旅の人を送り出した実績もあり、信用されているのです。ですから、心配されるような、例えば我々家族が捕まるようなことは考えなくて、大丈夫です」

若者はいつになく饒舌だった。少し、興奮しているようでもあった。その証拠に、彼の天道虫がクルクルと勢いよく飛び回っている。

翌日、「消えず見えずインクを読むための装置」を持って、若者が帰宅した。ゴム手袋にしか見えない。これで消えず見えずインクを撫でると、インクに書かれている内容が読み取れるのだという。

主治医は、険しい顔のまま言った。
「この町の装置は、最新型ではありません。うまくスキャンできるかどうかは、わかりません。そしてもう一つ……」
「この装置は、今飲んでいる薬が無効になります」
途端に身体が緊張した。このゴムにしか見えない手袋は、一体どんな感触だというのだ。