衝撃はあっても痛みはなかった。実際、ボールではなくて小さな天道虫なのだから、当たり前といえば当たり前なのだが、あの衝撃で痛くないというのは、これまた混乱する状況だった。
天道虫は、こちらのまわりを一回りすると、背の高い若者の元へ飛んで行った。
若者と天道虫は友達のようだ。
「驚かせてすみません。この街は初めてなんですね?」
と、若者が話しかけてくれた。とても賢そうな雰囲気だ。
「おかげさまで、叫び声が治まりました。……この街は、見た目と感触がずいぶん違って混乱しています」
と答える。
「初めてここに来る人は、皆さんそう言います。慣れる人も多いのですが……やはり、かなり時間が掛かります。和らげる薬を飲む人もいます。飲みますか?」
その申し出にすぐに首肯できる者はいるだろうか。