叫び声を掻き消すように青い鳥が低く響く声で唱えた。
「消えず見えずインクの旅券を持つ者に、この街を案内(あない)する者は挙手をせよ!」
身形のよい人と別れ、ポストに飛び込んだ時、あんなに小さくなったのに、いつの間にか元の大きさに、いや、もっと大きくなっているようだ。不思議と重さも感じず邪魔にもならない。
冷静に青い鳥の様子を観察してはいるが、まだ叫び続けている。こんな声で叫んだことはないから、止め方がわからない。
「消えず見えずインクの旅券を持つ者に、この街を案内する者は挙手をせよ!」
頓珍漢に古めかしく威張っているが、それがかえって頼もしかった。不安と混乱が、これ以上ないくらいに高まっていた。まだ、手にはスパゲッティをかき上げた感触が残る。
膝は? 耳は? 股間は? 一体どんな触り心地だというのだ。だが、もう他の身体の部位を触る勇気がない。
「消えず見えずインクの旅券を持つ者に、この街を案内する者は挙手をせよ!」
突然、背中にボールをぶつけられたような感触がした。叫び声は、止まった。
ボールだと思ったものは、天道虫だった。