2019年6月4日火曜日

鑑賞すべき涙

立派な身形の人は、聞き上手でもあった。洗いざらい話をした。青銅色の街、美しい人との情事、老ゼルコバの死。そして犯した罪のこと。罪の話をしてもいいのかどうか、一瞬迷ったのだが、止める暇もなく口から溢れた。

まだこんなに涙が出るのかと思うくらいに泣いた。流れる涙をそのままにしたら、転がった涙の球で足首まで埋まった。立派な身形の人は、用意もよかった。大盥を足元に置いてくれたのだ。「この街では、号泣する時は皆、これを用いるのです」と大真面目に言うのだった。

ようやく涙が枯れると、立派な身形の人は、大盥を持って庭に出た。夕陽で涙の球が輝く。さっきまで体内にあった水分を、こんな形でまじまじと見る機会がかつてあっただろうか。「この街では、こうやって、涙を鑑賞するのです。どうですか、悪くないでしょう?」と、また大真面目に言う。

「どうしてこんなによくしてくれるのですか」と尋ねる。
「以前、貴殿と同じ体験をしたからです」と、立派な身形の人は、腰のあたりを手でさすった。この人も、消えず見えずインクで旅した人だった。