「こちらに御座します、消えず見えずインクの旅券を持つ旅のお方を介抱する者はおらぬか!」
赤い鳥は絶え間なく叫び続け、三回は転んだ。
初めに転んだのと合わせて都合四回も転べば、多少は巧くなるもので、顔から激突する事態は初めの一回だけで済んだ。
とはいえ、転ぶ度に顔や服は汚れており、鏡を見ずとも相当にみすぼらしい風体になっていることは明らかだった。
こんな格好で、赤い鳥が焦るように叫ぶから、なかなか「介抱する者」は現れない。
「どこかで手を洗わせてもらいたいのです」
と、赤い鳥の叫びに付け足すように言いながら地に足が付かぬまま歩いていると、赤ん坊を抱いた人が声を掛けてくれた。
「我が家でよければ、案内します。シャワーもありますし、古くて構わなければ着替えの服も差し上げましょう」
ありがたい申し出だった。さらに良いことに、この人の体格なら、服の寸法もちょうどよさそうだ。
「この子の真似をして歩けば、誰も不審に思いませんから、どうぞ這って付いていってください」
赤ん坊は地面におろされると、「委細承知」という面持ちで、ハイハイで進みはじめた。それに続いて、這って行くことにする。