全く奇妙な出来事だった。
3インチ浮いた身体で、3インチ浮いた小石につまずき、転び、浮いていない地面に激突した。そして、顔から血を流しているのだ。
何が起きているのか判らず、しばらく地面に突っ伏していた。この街に来てやっと触れることのできた地面の感触を確かめてもいた。
手で触れる地面は、よく知っているアスファルトの舗装道路と同じようだ。
「こちらに御座します、消えず見えずインクの旅券を持つ旅のお方を介抱する者はおらぬか!」
赤い鳥はサイレンのように叫び続けている。しばらく構わずに地面に触れていたが、人が集まってきてしまったので、立ち上がることにした。
起き上がって、立つことはできた。が、二本の足で立ち上がった瞬間、もう足は地面につかないのだった。
血の滲む顔で笑うと、集まっていた人々は拍手し、そして少しずつ去っていった。
どうにも地面が恋しいが、這って歩くわけにもいかない。浮いて歩くことに慣れなければならない。何より、この汚れた顔と手を洗わなければ。