2017年1月30日月曜日

一月三十日 コーヒーショップの朝

朝から読書する場所を求めてコーヒーショップに入った。頼んだのはハーブティーだけれど、ここはコーヒーショップだ。

この時間、読書するために来る人は多いようで、先客の多くも文庫本を広げていた。私も同じようにする。

一組だけ、おしゃべりをしている客がいた。そのうちの一人の声がやけに店内に響き、本を読む客たちは、少し迷惑そうである。

その人の声は、だんだん大きくなり、なにやら機械的になり、とうとう、ひび割れるほど大きくなった。

極力、その人のことを見ないようにしていたが、堪らなくなり、顔を向けた。拡声器だった。

客足が途絶えた隙に、店員が拡声器に近づく。「恐れ入りますが、お客さま」

店員が、プチン。と拡声器のスイッチを切った。店内に静けさが戻る。本をめくる音がする。

2017年1月27日金曜日

燃え尽き症候群

ベスビアスの老人は、ウィトルウィウス建築の研究家。
飲酒の一滴から引火して、蔵書が全焼。
なんてヘベレケなベスビアスの老人。

There was an Old Man of Vesuvius,
Who studied the works of Vitruvius;
When the flames burnt his book,
To drinking he took,
That morbid Old Man of Vesuvius.

エドワード・リア『ナンセンスの絵本』ちくま文庫

2017年1月17日火曜日

一月十七日 顔を洗うとき

近頃、洗面所に立ち顔を洗い始めると、背中に何者かが乗るのである。
生憎、私は近視が強く、メガネを外した状態では鏡を見ても何者かの姿を確認できない。
タオルを取ろうとすると、すっと背中が軽くなる。

2017年1月14日土曜日

一月十四日 巨大ケサランパサラン?

腹のあたりが暖かい。と思ったら、セーターの腹がやたらふくらんでいる。
襟元から覗いてみると、なにやら白くて丸い、大きな毛玉が入っていた。
巨大なケサランパサランかもしれない。寝息を立てているのが腑に落ちないが。

2017年1月13日金曜日

見たら駄目

デリーダウンデリーは、子どもが大好き、ほろ酔いおじさん。
おじさんが書いた法螺話。
みんなで笑って千鳥足。
デリーダウンデリーは出鱈目でれすけ。

There was an Old Derry down Derry,
who loved to see little folks merry;
So he made them a Book,
and with laughter they shook

At the fun of that Derry down Derry.


エドワード・リア『ナンセンスの絵本』ちくま文庫

Derry down Derryはリアの筆名?だったらしい

2017年1月8日日曜日

夢 骨董店の怖ろしい人

寺の境内にある骨董店にて、書画骨董の修復の講座が開かれている。
私は、知人に連れられてその骨董店に立ち寄り、器皿を物色していたが、いつの間にか修復講座に参加することになっていた。

同行した家族は若い頃にこの講座の講師たちに習ったことがあるらしい。「阪さんは、とっつきにくくて難しそうな人だけれど、慣れると付き合いやすい人。伴野さんはいきなり怒鳴り散らしたりするからどうにも苦手で……」と言いながら、旧知の人を見つけて部屋を出て行ってしまった。

私はすでに受講者で鮨詰め状態の和室から出ることができなくなっていた。受講者に和紙と筆が配られる。満員電車なみに混雑した部屋で、この和紙をどうするというのだろうか。

そうこうすると講師がやってきた。「伴野」という講師は、家族が言っていたように、やたら大声で話し、すぐに怒鳴る。まだ何も始まっていないのに。

なんの説明もなく「和紙をびしょびしょに濡らせ、ただし皺は一切許さない」と指示された。

2017年1月5日木曜日

一月五日 午睡

午睡中、耳に息を吹きかけられた。
何者かの思念が言葉となり文字となり、私の脳内で映像化されたが、生憎、私と何者かは種族が異なるようで、その文字を理解することはできなかった。

続いて、何者かは私の右頬を熱心に舐め始めた。痛い。まだ眠っていたかったが、ここで目を開けた。

何者かによる攻撃は、今日も意味が分からない。

2017年1月3日火曜日

一月三日 父ちゃんと黒い自動車

父の新しい車はピカピカツヤツヤの黒で、なかなか恰好がよい。さまざまハイテクな安全装置が付いているようで、頼もしい。
でも、ちょっと変わっているところもある。バックするときに情けない電子音をポヒポヒ鳴らしながら、車体が伸び縮みするのである。
ポヒーポヒーポヒーと言いながら、軟体動物のような動きをする。おかげで父は車庫入れにえらく苦労するようになった。
今日は狭い路地沿いの、小さな家の、小さな駐車スペースに斜めにバックしながら車を入れるという難題に出くわしたが、父は近年稀にみる集中力と執念で、グニグニする車を六度目の挑戦で見事に駐車させたので、そろそろ車も手懐くことだろう。

2017年1月2日月曜日

一月二日 通学路

かつて通った町へ行ってみた。
この町に通っていたその頃は短いスカートを一年中穿いていたけれど、もうそのスカートを捨てたのかどうかも覚えていないくらい昔の話だ。

学校から駅へ向かう道を歩いてみる。痴漢注意の看板、一か所だけ欠けたブロック塀、あの頃のままだ。
かつて通った駅ビルも、ほとんど変わっていなかった。あの頃と同じテナントが入り、あの頃の流行りの服が売っていた。
時計を見て気が付いた。うるう秒を刻み逃したのだ、この町は。

2017年1月1日日曜日

一月一日 おみくじ

初詣に三十分も並んだのは、ずいぶん久しぶりである。暖かい正月だったから、それほど苦ではなかったが、私の前はタヌキの家族で、後はキツネの家族だったので、化かされやしないかと少々ハラハラしながらの初詣であった。

おみくじを引く。
「大吉」
幸先がよい。気分よくおみくじを結びつけていると、声を掛けられた。

先ほどのタヌキの家族である。「おみくじの字が難しい、読んでくれ」というので、音読する。
「末吉~!」
「油断せず~努力すれば望み叶う~」
私の声は思いがけず高らかに一月一日の神社に響き渡った。そんなに大きな声で読み上げているつもりではないのに、止まらない。
「待人~遅いが来る~」
四つの毛むくじゃらに見上げられて悪い気はしないのが不思議である。