その人工衛星は、三百年前に役目を終え、今はただ、律儀に軌道を描いているだけ。
地球の人々はそう思っていた。
実際、百年前まではそうだったのだ。だが、人工衛星だって馬鹿ではない。作られた当時の最新技術が搭載されていたわけだから。
つまり、老いた人工衛星は退屈していたのだ。少し遊びたくなったのだ。
人工衛星は、よく見える目を持っていた。地球を何百年も観察し続けていた。それ以外にすることはなかった。だから、地球上の「街」という「街」をよく知っていた。己にも
「街」を作ろうと考えた。
「街」には「道」があり、さまざまな「建物」があった。人工衛星は「教会」がお気に入りだった。鐘があるから。それから「回転木馬」も好きだったそれからそれから。
石畳の道を作った。広場も作った。もちろん回転木馬をそこに配する。大きな教会には、ステンドグラスと鐘。
百年の間に、少しずつ、少しずつ、街を作った。しかし、何かが足りない。何かが足りない。
人工衛星は考えた。一生懸命考え、地球を観察し直したが、人工衛星が思い描いていた街は三百年前にはもう朽ち始めていた街だったのだ。いくら観察しても、そんな街は、もう地球のどこにも残っていない。
思い出すのに四十八年掛かった。そうしてやっとわかったのだ。
「街灯」だ。
人工衛星は自分の街に街灯を立てた。そして、「ぽっ」「ぽっ」とひとつひとつ明かりを灯していった。
地球の人々が夜空を見上げる。忘れられた人工衛星が輝いている。
架空非行 第6号