デラックス・ビーンズ:二十五年に一度だけ実を付ける、マメ科に近い形態の植物。大量のマメを放出し、世界中に散らばり、天地万物の情報を吸収、『デラックス百科事典』を形成する。なお『デラックス百科事典』は、森羅万象の真実を端的に且つ短絡に示すものである。
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一粒のマメを素早く網で捕まえた。四半世紀に一度の研究のチャンスである。
シャボン玉のようにプリズムを輝かせた透明な丸いマメたちは、さやから出ると、あるものは空を飛んでいき、あるものは転がっていき、またあるものは地面に埋まっていく。
謎の多いこの植物。食べたところで旨くもない。マメを飛ばす理由もわからない。世界でここにしか生えていない。研究するチャンスは人生に多くて三回。何の役に立つのかもわからないこの植物を研究しようという学者は私の他にはいなかった。
私はマメにオリジナルのチップを装着し、放した。何事もなかったようにマメは転がっていく。
早速データを計測しようとしたが、結局、チップからの情報は一時間程度で途切れた。情報が途絶えたと思われる地点に赴いたが、チップは見つからなかった。
――『デラックス百科事典』の新版が書店に並んだのは、その三年後だった。ページをめくっていると自分の名前が目に止まった。私の生い立ち、研究の内容。研究に用いたチップがどのような仕組みでどれだけの性能か。私はこれらを人に話したことはない。三年前、あの一粒のマメ以外には。