幼い娘の髪を切ってやるのは数ヶ月に一度の私の役目であったが、それは妻より私のほうが散髪が巧かったからというわけではなかった。妻に切らせることはできないと、気づいた私がその仕事を買って出たのだ。
切落した娘の頭髪は、またたく間に増殖するのである。毛から次々と毛が生えるのを目の当たりにした私は、それを妻に伝えることができなかった。切り落とした毛ほどではないが、抜け落ちた毛も少しは増えるようである。
「この子は抜け毛が多いのよ。若いからかしらね」と綺麗好きな妻は時々そう言うけれど、娘の奇っ怪な毛の性質については未だ気がついていない。
騙し騙し私が切っていた娘の髪だが、高校生ともなるとさすがに美容院へ行きたがるようになった。
「お父が切るほうがいいだろ?」と言いながら目で問うてみると、娘はクスっと笑った。
娘の行った美容院は間もなく潰れてしまうので、この町から美容院がなくなる日も遠くないだろう。