寂しさが募って、どこかに消えたくなったとき、僕は砂漠の砂が入った小瓶を取り出す。
いつもは勉強机の一番上の抽斗の奥のほうに転がっているのを、半端な消しゴムとかあんまり出ないペンとか、目盛りの消えかけた定規をかき分けて、引っ張り出してくる。
何度か軽く瓶を振ってから、右の耳に当てる。
かすかに、声が聞こえてくる。兄さんの声。兄さんが僕に、砂漠の国の昔話をしてくれる。
僕は息を殺して、その声を聞く。砂漠の風や、匂いを感じる。
「……おしまい。おやすみ。ゆっくり寝るんだよ」
兄さんの話が終わる頃、僕は目を閉じる。つまらない毎日が見えないように。兄さんの顔を忘れないように。