2012年12月10日月曜日

砂漠の囁き

寂しさが募って、どこかに消えたくなったとき、僕は砂漠の砂が入った小瓶を取り出す。


いつもは勉強机の一番上の抽斗の奥のほうに転がっているのを、半端な消しゴムとかあんまり出ないペンとか、目盛りの消えかけた定規をかき分けて、引っ張り出してくる。


何度か軽く瓶を振ってから、右の耳に当てる。


かすかに、声が聞こえてくる。兄さんの声。兄さんが僕に、砂漠の国の昔話をしてくれる。


僕は息を殺して、その声を聞く。砂漠の風や、匂いを感じる。


「……おしまい。おやすみ。ゆっくり寝るんだよ」


兄さんの話が終わる頃、僕は目を閉じる。つまらない毎日が見えないように。兄さんの顔を忘れないように。