2012年3月27日火曜日

夕暮飛行

夕焼けの雲海は、刻々と色が変わるから、次々と絵の具を出さなくちゃならない。
僕は飛行機の窓におでこをぶつけながら、何枚も空と雲の絵を描いた。
小さなパレットの絵の具が混ざり合って真っ黒になった頃、夜間飛行。

2012年3月20日火曜日

鳥の卵

「冷蔵庫を貸してくれませんか」と鳥に訊かれた。訳を聞くと「卵を冷やしたい」という。
なんでも、この鳥には時々冷やさないと孵らない卵が生まれるそうだ。
冷蔵庫を貸すくらいどうってことはないから、快く貸した。
けれど、困ったことにその鳥の卵が鶏卵そっくりなので、どれが食べていい卵で、どれが冷やし中の卵かわからなくなってしまったのだ。
「卵が孵るまで、六週間ほどです。それまで決して卵を動かさないでください。どうかよろしくお願いします」
と言われたから、もう、どの卵も触れることができない。
大好きなゆでたまごが食べられない由々しき事態は当分続く。


2012年3月19日月曜日

無題

花の香りを辿ると、画家のアトリエに着いた。「花を描いているのです」キャンバスからは、確かに花の香りがする。「この花の香りがわかるということは、き みの存在が絵だからだよ」と、画家が言う。絵の中に入り込むのは簡単だった。あれから二十年、春から美術館暮らしが始まる。



#twnvday 3月14日ついのべの日 お題「花」


2012年3月17日土曜日

死よりも強し

連れ合いを何者かに殺された鴉は、自らの羽を一枚、また一枚と嘴で引き抜き、その亡骸の周囲を守るように飾っていった。
死んだ鴉はいつまでも黒く輝き、その周りの羽は、日に日に色が褪せていった。
丸裸になった鴉は寒さと飢えに震え、それでもなお亡骸から離れようとしなかった。

羽のない鴉が死んでいるのを見つけた老人は、傍らに別の鴉の死骸と大量の白っぽい羽が落ちているのを見て、ひどく驚いたそうだ。
二羽の鴉は、老人が孫と一緒に手厚く葬ったという。

2012年3月14日水曜日

風船撃ち

ケンは、風船撃ちを生業にしている。
街中で風船を見つけると、ゴム鉄砲で「パン!」と撃ち落とす。
風船は危ない。赤とか青とか黄色とか、何色だって危ない。
子どもたちは風船を見つけると、ケンに知らせに来る。
「おっちゃん! 風船が出た!」
よしきた! おっちゃんに任せな。
ケンは子どもたちを追いかける。ビルの屋上に出現したピンクの風船。
とりわけ報酬がいいやつだ。そのぶん、危険度は高い。
ピンクの風船は、どんどん高く上がっていく。成層圏に入る前に撃ち落さねば。
狙いを定め、見事命中。子どもも大人も、拍手喝采。
ピンクの破片がひらひら舞い落ちた。


2012年3月11日日曜日

肉彈

直滑降、直滑降。鴉は黒い弾丸になった。
雛鳥の餌をねだる悲壮な声が、こだまする。
魑魅が目を覚ます。猟師が山で迷う。


2012年3月9日金曜日

油断大敵

「鰻には注意しなさいよ」と鴎は散々親から聞いていたけれども、鰻というのがどういうものだかは教えてもらわなかったのである。
「あなたの伯父さんは、鰻に殺されたの」と聞かされれば、鴎も鰻を恨めしく思う。
きっと「鰻」というのは、鋭い牙とか角とか、爪とかを持っていて、大きくて恐ろしいものだろうと、一生懸命想像した。

さて、そんなことを考えていたら、腹が減ってきた、海の中に黒くて細長い生き物がいる。あれはまだ食べたことがないが、魚のようにピチピチと暴れたりはしないだろう。きっと捕まえやすいはずだ。


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原本のエピソードをそのまま使いました。鰻に首を閉められて殺される鳥が結構いるそうです。

(戦前の本の内容で、確認は取っていません。)

2012年3月5日月曜日

犬と猫との親友

うたた寝から目覚めるのは、たいてい犬が先で、猫は大あくびを四回してから、犬を見上げる。


犬は早く猫と遊びたくてうずうずしている。猫はもう二回伸びをしてから、犬のしっぽに気づく。


ワホワホしているしっぽに徐に跳びかかる。犬は猫をあしらうようにしっぽを振り回すが、実のところ犬のほうがよほど興奮しているのだ。


毎日のように繰り返されるそれを、大勢の鳩が見て呆れているけれど、瞬きをしたら鳩ももう忘れている。こうして毎日が過ぎていく。



2012年3月4日日曜日

仲のいい犬と猫

猫が寝心地のよい場所を探しまわって辿りついたのは、犬の腹だった。
寝てばかりの猫の寝台になることを嫌がっていた犬も、次第に慣れていった。
猫のヒゲから得る情報は、犬にとって、非常に新鮮だったからだ。
ひなたの匂いにを嗅ぎ分けられるようになった犬と、ドッグフードも食べる猫は、今日も窓際でうたたねをしている。


2012年3月3日土曜日

海鳥の巣

小さな島で一人で暮らしていたカースバードは、孤独で、歳を取り、身体も弱っていた。
ある嵐の晩、一組の海鳥の夫婦が、カースバードの島にやってきた。
彼らは巣を作る岩場を探していたが、なかなか条件の合う地を見つけられずにいたのだ。
「この島で、子供を作りたいのです」と海鳥はカースバードに伝えた。
海鳥は巣を作り、たくさんの卵を産むと、一つだけカースバードに与えた。
カースバードはその卵で元気を取り戻した。
カースバードは鳥たちに天気を教え、海風と大きな鳥たちと、密猟者から卵を守った。
そして、たくさんのヒナが生まれた。ヒナはカースバードが見守る中、巣立ち、季節がめぐるとまた戻ってきた。
「この島で、子供を作りたいのです」と海鳥はカースバードに伝える。
そして、巣を作り、卵を一つだけ、カースバードに与えた。
海鳥を見守りながら、カースバードはもっと歳を取った。
いくら海鳥の卵が滋養に満ちているとは言っても、カースバードはもう本当に年寄りだったから、少し元気になって、もっと老いていった。
そして、カースバードは「この島の海鳥の巣を守るについてのあれやこれや15条」を書き残して、死んだ。


ファーン諸島の聖カスバートをもじった。

2012年3月2日金曜日

無題

雪だるまに、飲酒の形跡。



さて、3月になりました。


18日で、超短編を書き始めて10年になります。10歳、歳を取りました。


500文字の心臓に参加したり、賞に投稿したり、本に掲載されたりもして、充実した10年でした。


次の10年はどうしようかと思ったとき、やっぱりここでコツコツ書いて日々を重ねていくことが、私のやりたいことだと感じたので、そうしようと思います。


10年前、「5年以内くらいに、商業書籍に掲載されること」を目標にしたので、それは達成できました。


目標とは別に、野望も掲げました。「一万作書くこと」です。


野望を思いつくなんて、生まれて初めてだし、その後もありませんし、たぶん今後もないと思います。


現在2300作くらいです。あと7700作。これを叶えることに専念したい。


だから、外に投稿する機会は、減るんじゃないかなーと感じています。


機が熟したり、気が変わったり、この木がなんの木になったりするまでは。