蟹はいつだって規則正しい生活をしている。
時計を持っていることは、人間には内緒だ。
落っことす人間がいけないのだ。
最近のは防水機能がしっかりしているから、蟹にも不自由なく使える。
時計を確認した蟹は、食事の時間であることを知る。
甲羅に砂を掛け、丁寧に身を隠すと、獲物を待つ。
じっと待っていると、秒針の音が気になる。
なんだか楽しくなってきて、時計を嵌めた鋏をカチコチと振って、陽気に踊る。
振り上げた鋏に、うっかり捕まってしまった魚を見て、蟹は多いに驚き、慌てて食べる。
満腹になって時計を見ると、ちょうど食事の終了予定時刻だった。
蟹は時計を持ってから、何故だか狩りに失敗することがなくなった。
元本『鳥獸蟲魚の生態』では、「マイア」という蟹が獲物を捕まえる話なんだけれど、マイアという蟹のことは、ちょっと検索したくらいでは出てこない。
著者の加宮貴一については、こんなページを見つけました。