鏡に向かったあなたは、己の顔が真っ白になっていることに狼狽した。のっぺらぼうになったわけじゃない、仮面を着けているだけだろ、と言うと安堵する。だが仮面は外れない。あなたは再び焦り出す。
あなたは呼吸するための二つの穴に指を差し入れた。指が何にも触れない?まさか。鼻にも何も感じないのか。
あなたは視界を確保するための穴に望みを託す。穴の奥にあるはずのあなたの瞳は見えないが、それでもあなたは指を入れようとする。きつく目を閉じて、と言うとあなたは力強く頷く。
指が入り、手が入り、腕が入っても、まだ何も触れないようだ。肩が入りそうになったと思ったら、あなたは穴の中に引き込まれ、消えた。
落下し、硬い音を立て、鏡の前に転がる仮面。これは一体何だ。あなたはあなたの顔を失ったまま消えたのか。消えなければならなかったのか。
わたしはあなたの温もりを求めて仮面を手に取った。
刹那、鏡に映る真っ白な顔。
********************
500文字の心臓 第72回タイトル競作投稿作
△2