果たして、するめと昆布をまぶす猫がやってきた。
捕まえるのは難儀だなぁ、と思っていたら、書きかけの賀状目がけて飛び込んできた。
2007年12月30日日曜日
2007年12月29日土曜日
十二月二十九日 するめと昆布
するめと昆布を細く細く切った。これは元日の朝に猫にまぶす。するめと昆布に塗れた猫は、福の神の好物なんだと、ひぃばあちゃんが言っていた。
ちなみにひぃばあちゃんには逢ったことがない。
ちなみにひぃばあちゃんには逢ったことがない。
2007年12月28日金曜日
2007年12月26日水曜日
十二月二十六日 冬の星座
20時半になると割合に近くから犬の遠吠えが聞こえる。
周りには犬を飼っている家などない。今夜はちょっと偵察に行ってみよう。
厚い綿入れのコートを着て外へ出たら、星が冴え冴えと美しい。
ずいぶん長いこと見惚れていたらしい。いつのまにか犬の遠吠えは聞こえなくなっていた。
周りには犬を飼っている家などない。今夜はちょっと偵察に行ってみよう。
厚い綿入れのコートを着て外へ出たら、星が冴え冴えと美しい。
ずいぶん長いこと見惚れていたらしい。いつのまにか犬の遠吠えは聞こえなくなっていた。
眉唾物
久々にウサギが現れてプレゼントを置いていった。
下手くそな字のカードを読む。
「クリスマスプレゼントをやろう。どうせ独り寂しく過ごしたんだろう」
赤い包み紙を開けると『素敵な雄兎2008』という本だった。
ウサギが持って来るものは何だっていかがわしいのだけれど、これはまた……。
案の定、ウサギが面妖なポーズで微笑みかけてくる写真がたっぷり108頁。
下手くそな字のカードを読む。
「クリスマスプレゼントをやろう。どうせ独り寂しく過ごしたんだろう」
赤い包み紙を開けると『素敵な雄兎2008』という本だった。
ウサギが持って来るものは何だっていかがわしいのだけれど、これはまた……。
案の定、ウサギが面妖なポーズで微笑みかけてくる写真がたっぷり108頁。
2007年12月25日火曜日
十二月二十五日 自己主張する電話
電話線が壊れて、電話が鳴らない。鳴らない電話はただの番号釦付きの機械だ。電話線が直るまで、黙っていればいい。
なのに、ディスプレイは始終ビカビカと点滅を続け、留守番電話釦はいつもにまして真っ赤になっている。
どうやら、電話はSOSを出しているつもりらしいのだ。
なのに、ディスプレイは始終ビカビカと点滅を続け、留守番電話釦はいつもにまして真っ赤になっている。
どうやら、電話はSOSを出しているつもりらしいのだ。
2007年12月23日日曜日
十二月二十三日 残り血
落ちてひび割れた器を指でなぞったら、ボタボタと血が出てきた。
指は切れていないから、おととい逢った吸血鬼が飲み損なった血だと思う。まだ生暖かい。
一瞬迷ったけれど、舐めるのはやめた。
指は切れていないから、おととい逢った吸血鬼が飲み損なった血だと思う。まだ生暖かい。
一瞬迷ったけれど、舐めるのはやめた。
2007年12月22日土曜日
2007年12月20日木曜日
十二月十九日 三宅さん
「三宅さん」
寝ぼけた少女は、ノートにそう記した。
「三宅さんって?知ってる人?」と尋ねるが、三宅という名の知り合いはいないという。
少女は、三宅さんを探す旅に出ると言って、夜の町に出て行った。
寝ぼけた少女は、ノートにそう記した。
「三宅さんって?知ってる人?」と尋ねるが、三宅という名の知り合いはいないという。
少女は、三宅さんを探す旅に出ると言って、夜の町に出て行った。
2007年12月18日火曜日
十二月十八日 糸に翻弄される
糸巻きが転がっていくので、ウサギに追いかけさせたら、蹴飛ばして遊びはじめた。
サッカーじゃないんだ。白い糸はすっかり汚れてしまった。
おまけに縺れに縺れて解くのに難儀した。
ウサギは満足そうだ。わたしは肩こりだ。
サッカーじゃないんだ。白い糸はすっかり汚れてしまった。
おまけに縺れに縺れて解くのに難儀した。
ウサギは満足そうだ。わたしは肩こりだ。
2007年12月17日月曜日
2007年12月15日土曜日
2007年12月12日水曜日
2007年12月11日火曜日
十二月十一日 靴が鳴る
靴音が高いので驚く。そんなに尖ったヒールじゃないのに、暗くなった町にカツカツカツカツ響く。
そっと歩いてみてもやっぱりカツカツと鳴る。
爪先だけで歩いてもカツカツカツカツ鳴る。
立ち止まったら、三回余計に鳴った。カツカツカツ。
なんだ、わたしの足音じゃなかったんだ。
そっと歩いてみてもやっぱりカツカツと鳴る。
爪先だけで歩いてもカツカツカツカツ鳴る。
立ち止まったら、三回余計に鳴った。カツカツカツ。
なんだ、わたしの足音じゃなかったんだ。
2007年12月10日月曜日
2007年12月9日日曜日
十二月九日 食い意地
くるみパンは大きいから、ウサギと分け合って食べた。
私はバターをちょっとだけつけて。ウサギはくるみを外しながらパンを食べた。
「くるみは食べないのか?」
と聞くと「持ってかえって食べさす」
誰にあげるんだろ、と思っていたら目の前のくるみに我慢が利かなかったらしく、全部食べていた。
私はバターをちょっとだけつけて。ウサギはくるみを外しながらパンを食べた。
「くるみは食べないのか?」
と聞くと「持ってかえって食べさす」
誰にあげるんだろ、と思っていたら目の前のくるみに我慢が利かなかったらしく、全部食べていた。
2007年12月7日金曜日
十二月六日 本当のイルミネーション
星が見えなくなる、と憤慨しながら、ウサギは家家に飾られたイルミネーションをプチプチと食べていく。
ふゆの夜はしん、としていてほしい。クリスマスを彩るのは本物の星の瞬きが一番だ。
強くそう思う。だけども、ウサギのお腹も心配だよ。赤青緑に点滅するお腹を擦って看病するのは、わたしだもの。
ふゆの夜はしん、としていてほしい。クリスマスを彩るのは本物の星の瞬きが一番だ。
強くそう思う。だけども、ウサギのお腹も心配だよ。赤青緑に点滅するお腹を擦って看病するのは、わたしだもの。
2007年12月6日木曜日
2007年12月4日火曜日
春の訪れ
凍り始めた土をつるはしで掘っても埒があかない。そんなことはわかっている。それでも時間をかけてつるはしを振り下ろせば、冷たく硬い土も少しづつ砕かれて穴が出来る。
俺は出来た穴にポストを設置する。小さなポストだ。まもなく雪が積もってポストは埋まるだろう。やがて冬と春の真ん中になったら、狸のおっさんが滝のような小便をしてポストを埋めた雪を溶かしておいてくれるはずだ。
ポストの中には、動物たちが冬眠中に芽を出してしまった恋が入ってくる。小便臭いポストの扉を開けて、ふぅと息を吹き掛けると、恋の芽はひらひらと飛んでいく。飛び去る恋の芽を見送りながら、いよいよ春だ、と俺はうれしくなる。
時々、元の持ち主に帰れなかった恋の芽の仕業で、みょうちきりんなカップルが出来てしまうのは、ご愛嬌。
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コトリの宮殿規定部門投稿作
2007年12月2日日曜日
十二月二日 必要な印鑑に、必要なもの
印鑑を探して、ベッドの下に潜ったら頭をぶつけた。
痛いのでベソをかいたら、ウサギが赤い舌であっかんべーをする。
なんて意地悪をするんだ、痛くて泣いているのに、と思ったけれど
いつまでも舌を出しているので、よくよく見たら朱肉だった。
痛いのでベソをかいたら、ウサギが赤い舌であっかんべーをする。
なんて意地悪をするんだ、痛くて泣いているのに、と思ったけれど
いつまでも舌を出しているので、よくよく見たら朱肉だった。
2007年12月1日土曜日
仮面
鏡に向かったあなたは、己の顔が真っ白になっていることに狼狽した。のっぺらぼうになったわけじゃない、仮面を着けているだけだろ、と言うと安堵する。だが仮面は外れない。あなたは再び焦り出す。
あなたは呼吸するための二つの穴に指を差し入れた。指が何にも触れない?まさか。鼻にも何も感じないのか。
あなたは視界を確保するための穴に望みを託す。穴の奥にあるはずのあなたの瞳は見えないが、それでもあなたは指を入れようとする。きつく目を閉じて、と言うとあなたは力強く頷く。
指が入り、手が入り、腕が入っても、まだ何も触れないようだ。肩が入りそうになったと思ったら、あなたは穴の中に引き込まれ、消えた。
落下し、硬い音を立て、鏡の前に転がる仮面。これは一体何だ。あなたはあなたの顔を失ったまま消えたのか。消えなければならなかったのか。
わたしはあなたの温もりを求めて仮面を手に取った。
刹那、鏡に映る真っ白な顔。
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500文字の心臓 第72回タイトル競作投稿作
△2
あなたは呼吸するための二つの穴に指を差し入れた。指が何にも触れない?まさか。鼻にも何も感じないのか。
あなたは視界を確保するための穴に望みを託す。穴の奥にあるはずのあなたの瞳は見えないが、それでもあなたは指を入れようとする。きつく目を閉じて、と言うとあなたは力強く頷く。
指が入り、手が入り、腕が入っても、まだ何も触れないようだ。肩が入りそうになったと思ったら、あなたは穴の中に引き込まれ、消えた。
落下し、硬い音を立て、鏡の前に転がる仮面。これは一体何だ。あなたはあなたの顔を失ったまま消えたのか。消えなければならなかったのか。
わたしはあなたの温もりを求めて仮面を手に取った。
刹那、鏡に映る真っ白な顔。
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500文字の心臓 第72回タイトル競作投稿作
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