2020年6月12日金曜日

時間に負けない速さで

朝だと思っていた太陽が西に傾き始めた。
突然時間が早回しになって、身体が振り回されるような感覚になる。
「急ぎましょう!」
穏やかな人が、机にしがみつきながら、きっぱりと言った。
「私が送ります」

砂浜に出た。
「全速力で走って。時間に負けないくらいに」

島を何周もした。こんなに速く走れたことはかつてなかった。今なら自己ベストタイムが出るだろう。この島の時間は当にならないが。
青い鳥の足が肩に食い込む。不思議と息は切れない。
島を一周するごとに穏やかな人の姿がぼやけていく。人の形ですらなくなって、残像のような、筋のようなものを認識するだけになった頃、声が聞こえた。
「しゃがんで!」