2020年1月26日日曜日

火傷する暇

暖炉の中にあるのは、奇妙に赤い炎だった。薪が燃える音、匂い。ゆらめき。それは確かに炎だったが、色だけが、人工物のような赤だった。
初めて転移したときの電話ボックスの、鮮やかで真っ赤な電話を思い起させる赤だ。
「この赤は、見覚えがあります」
というと、若い家主は頷いた。委細承知、という顔だった。

青い鳥はもう叫んではいない。すぐにでも暖炉に飛び込みそうなくらいにうずうずしているが、こちらは暖炉の炎の中に入るのを躊躇う気持ちが抑えきれない。

「熱いんでしょうね。火傷しそうです」
と気弱に言うと
「その心配はいりませんよ。薬をやめて、時間も十分に経っただろうから……この炎の感触は、あなたにとって炎ではないはずです。それに、火傷する暇もなく転移が行われるので、痛くも痒くもなりません。大丈夫」

その「大丈夫」は本当に、確信に満ち、尚且つ笑顔の「大丈夫」だった。この先、この「大丈夫」を何度も思い返すだろう、と思った。
「では……ありがとうございました。お医者さん一家にもよろしくお伝えください」
若者の名をそっと思い返しながら、暖炉に足を踏み入れた。