2019年10月17日木曜日

君の名は

どうにか薬を飲み終えてからも、はらはらと涙が止まらない。ずいぶん涙脆くなった。
いや、いろいろと刺激があり過ぎるのだ、この旅は。罪を償うためだから、それが当然ともいえる。

一方で、心身ともに刺激に晒され、疲労している中で、親切な人に数多く出会った。疲れた心と体は、やさしくされると途端に涙を出す仕組みになっているとしか思えない。そのやさしくしてくれた人々の名前も知らないなんて……と思うとまた涙が溢れる。思考の堂々巡りが止まらない。

「お嫌でなければ、空き部屋を使ってください」
若者が部屋に案内してくれた。立派なベッドと鳥籠のある部屋だった。
「いつまでいてもいいんですよ。父は何度も消えず見えずインクの旅の人を世話しているんです。長逗留の人は10ヶ月くらい居たそうですから」
「ありがとうございます……ところで、父上や貴方の名前を訊いても……」
若者は困ったような顔で笑いながら「おやすみなさい」と言って、部屋を出てしまった。

青い鳥は自らすすんで鳥籠に入り、眠ってしまった。仕方なくベッドに入る。