2019年10月3日木曜日

これも罰だ

粒子を感じる水だった。
二杯目は、薬と一緒に飲んだ。粉薬が水の中で翻弄されるのを口中に感じながら、飲み込んだ。

以前、水が球状になる街があった。涙が硝子ビーズのようになったあの街だ。あの街の水の玉は口に入れるとただの水になったが、この街の水は口に入れるとビーズのようだ。

若者と父上に、その街と水の玉の話をすると、非常に興味を持って聞いてくれた。
「いつか、その街に行ってみたいですねえ、父さん」
 父上と若者が同じ顔で頷き合う。
しかし、消えず見えずインクの転移で行った街なので、場所も、名前も、知らないのです」
そう言ってから、愕然とした。

今まで行った街の名前、世話になった人の名前、ひとつも知らず、ひとつも知らされず、さして疑問に思うこともなく、ここまで転移を繰り返してきた。そういえば名前を訊かれたこともなかった。

これも「罰」なのだと気が付いた。
地名や名前を知れば「手紙」を書けるから。