2019年9月24日火曜日

緊張の水

若者と父上は、「三十年後の若者がいる」というくらいに、よく似ていた。
体格、雰囲気、話し方、仕草。親子にしても似すぎているのではないだろうか。
触感の混乱を忘れるほどに、二人のことを見比べてしまった。

「こちらの消えず見えずインクの旅の人が、触感の混乱が激しく困っていたのです」
と、若者が父上に説明してくれる。
父上に、この街の触り心地を詳しく訊かれた。時折、若者が助け船を出してくれ、大いに助かる。
いくつかの物を触り、触り心地を答える。
ゴムボール、ガラスのコップ、ぬいぐるみ等々。
どれも思いもよらない触り心地だ。

「確かに触感の混乱が強い。お辛かったですね。薬を出しましょう」
父上は処方箋を書き、薬を調合して戻ってきた。
「この街に来てから水を飲むのは?」
「初めてです」
「では、水だけ先に一口飲みましょう。驚くといけない」

かつて水を飲むのにこんなに緊張したことがあっただろうか。