若者の家が近づくと、天道虫は嬉しそうに飛び回り始めた。
天道虫の感情がわかるという経験は、初めてだ。感激していたら、せっかく若者が教えてくれたのに、地面の舗装が変わったことに気が付くのが遅れ、躓いた。
靴越しなのに、とても熱い地面だった。踏鞴を踏むような、千鳥足のような、けったいな足取りになってしまい、若者に掴まる力が強くなる。
「申し訳ない。この地面はとても熱いね」
「大丈夫ですよ。転ぶといけませんから、しっかり掴まってください。もうすぐです」
若者の家は、父上の開業する医院が併設で、タイルや硝子ブロックの外観がレトロで穏やかな雰囲気だった。
「今は休診の時間なので、家の玄関から入りましょう」
家の中は、毛足の長い絨毯だった。
「たぶん、この絨毯は、見た目通りの感触です」
その通りだった。ふんわりと柔らかい感触に、安心して、涙が出そうだ。