『御伽噺集』と書かれた背表紙を見つけ、手に取った。積もった埃を思わずフッと吹き飛ばす。辺りが白くなった。
貸出カードを見ると最終貸出日は1962年。この小さな図書館の狭い書庫で五十年以上も眠っていたと思うと、不憫に思った。
「埃だらけにしてゴメンね」
同僚たちに見つからぬように貸出手続きをし、鞄にそっと仕舞った。
帰宅後、ベッドに入って『御伽噺集』を開いた。
「昔昔、あるところにおじいさんと、おばあさんが暮らし、て、いま……」
それ以上は
読み進めることができなかった。文字は乱れ踊り、掠れ、解読できない。読める箇所を追おうとしたが、掠れた文字と古い紙の匂いは強い眠気を誘った。『御伽噺集』を抱くようにして眠った。
夢を見た。鮮やかすぎる夢だった。私は「おばあさん」として一寸法師の世界にいた。赤子の一寸法師を慈しみ、体の大きくならない息子を心配した。都に出たいという息子に針を渡す時には胸が引き裂かれる思いだった。
目覚めると『御伽噺集』を胸に抱いたままだった。本を開くと一寸法師がしっかりと読めた。続きのページは掠れた字が僅かに見えるだけ。次の夢は、浦島太郎だろうか、鉢かつぎだろうか。
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「もうすぐオトナの超短編」氷砂糖選 優秀賞
兼題部門(テーマ超短編「お伽話」