その豪奢な豆本は、まさに「手のひらの宝石」と呼ぶにふさわしいほどだった。
ページをめくると「ぽとん」と豆が零れ落ちる。この豆は、いくら本を読んでもなくならず、食えば腹が膨れるという不思議な豆だった。きらびやかな装丁にもかかわらず「災害時用」として人気があった。
ある年、干ばつによるひどい飢饉があった。豆本の奪い合いが起き、たくさんの豆本が破かれたり燃やされたりした。そして大きな戦となった。
待ち望んだ雨が降って、ようやく長い戦が終わり、親を失った子らは、弔いの代わりに豆本から零れ落ちた豆を戦場に植えた。子らは親から豆本を譲り受けることが多かった。豆本を形見として戦の間も大切に携えていたのだ。
彼らが青年になるころ、豆本の木は大木となり、豆本のなる森となった。