ここは書店の奥にある土間。昔の書店にはこうして大鍋があったものだが、今では珍しくなった。この店主もだいぶ年寄りだ。
茹で上がった豆を、板に一粒ずつ並べていく。ある程度、間隔を広くしておかないと、本になったときにぶつかり合って、捩れた本になってしまう。捩れた本は好事家には人気だが、書店の店主にとってはただの不良品だ。
決して広くはない書店の奥の間だから、あまりゆったり豆を並べるわけにもいかない。豆がどんな大きさの本になるのかはわからない。本に弾けたときにぶつからず、隙間もない、絶妙の間隔で並べていくのが、店主の腕の見せ所。
深夜の書店の奥、豆が弾けて本になるポコン、ポコンという音が小さく響く。