2017年10月22日日曜日

ポイントカード

「お客様の笑顔がポイントです」
 カードを差し出す店員は崩れを許さぬ化粧と隙のない笑みでそう言った。
 受け取ったそれは、大きさはまさしくカードだったが、スタンプを押す欄もなければ、機械に通すための磁気テープもないし、ICチップもない。
「えっと、これは、いつまで有効ですか?」
 他に訊くべきことがあるような気もするが。
「お客様が笑顔を失った時にこのカードは自動的に失効いたします」
 ポイントカードを覗き込むと、見慣れた顔が映っていた。我ながら「無表情だ」と思う。裏面には、この施設のロゴマークが入っている。試しに、ポイントカード向かって笑いかけた。表情筋に鋭い痛みが走る。
「ポーン!」
 軽やかな音が鳴り、ポイントが貯まったことを知らせる。ああ、一応「笑顔」として認識されたらしい。少しホッとした。
「一日に何回でもお使いいただけますよ」
 店員は計算された完全な微笑みで言う。私が作り笑顔さえ困難になる日は、そう遠くないと見透かしているに違いない。
 その時が来るまで、笑ってみせよう。この小さな鏡に向かって。

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