懸恋-keren-
超短編
2016年6月13日月曜日
六月十三日 梅雨とキノコ
正しい梅雨の日の商店街。ひときわ大きな傘を持ち歩く人がいた。が、少し奇妙だ。大きな傘を持つのは大柄な人が多かろうと思うのに、その大きな傘は私よりずいぶん低い位置を動いているのだ。歩みもゆっくりである。
私はその大きな傘にだんだんと近づき、追いつき、追い越した。追い越し際にチラリと大きな傘の主に目をやると、小さな婆さんであった。
そして、婆さんが歩くたび、傘の内側から、ブワッと赤い粉が僅かに吹き出すのだった。
その胞子を吸い込んでいいのか、悪いのか、一瞬逡巡し、大きく息を吸ってみた。 なんの匂いもしなかった。
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