超短編
瞬く間に重暗い雲が現れた。雨が振り出さぬうちに帰ろうと、空を見上げながら早足で歩く。
厚い雲の隙間から、傘が見えた。「え?」と思って目を凝らすと、やっぱり傘だった。よく見ればあっちにもこっちにも傘がある。
雲の上の人は、どうやって傘を使うのだろう。そんなことを考えていたら、いつの間にか歩みが遅くなってしまった。
ああ、雨が降ってきた。どんなに目を凝らしても、もう雲間に傘は見えない。