飼い猫がにゃーにゃーと鳴いているので、探すけれども見つからない。
あちこち探して、姿見の前を通りがかったときに目の端に猫の姿を捉えた。
反射的に姿見が映しているあたりを見るけれども、そこには居ない。果たして猫は鏡の中に入ってしまったのだった。
「どうやって入ったの?」
私は姿見の前にしゃがみこんで、猫に問うた。
にゃーと答えるばかりで人間にはわからない。猫も事情を察しているらしくて、こちらに懸命に訴えてくる。にゃーにゃー。
私は家中の鏡を引っ張り出してきて、姿見の前に並べた。なんだか魔術でもはじまりそうだ。
あっちこっちに鏡の位置を変えたり、上から横から覗いたりしていると、猫は別の鏡に映ったり映らなかったり、移ったり移らなかったり。
そうこうしているうちに、一番小さな手鏡からヒョイと飛び出してきた。
以来、鏡は必ず布を掛けているが、それでも時々知らない猫が鏡から飛び出してくる。