壁と箪笥の隙間に指を差し入れると、何かが指先を舐めるのだ。
這いつくばって懐中電灯で箪笥の隙間を照らし覗きこんでも、何も居ない。何もない。
けれども、人差し指を入れると、やっぱりチロチロと何かが舐めるのだ。
まあ、何でもいいや。チロチロチロチロと指を必死で舐めている「何か」が私はだんだん愛おしくなる。お乳をやる母猫はこんな気分かもしれない。いや、「何か」がいることを確かめて安心しているのは、私だ。
毎日、何時間もそうやって指を舐めさせているからか、近頃、指先がいつも腫れていて赤い。
その指を自分で舐めてみるが、「何か」のように上手く舐めることはできず、思わず歯を当ててしまう。赤く晴れた指からは、簡単に血が出るけれど、血が出ていると「何か」は舐めてくれないのだ。