六色の沼は規則正しく並んでいる。
沼に小石を投げると、それぞれ沈む速度が違うと言われているが、試したことがあるという人はいない。
なぜなら六色沼にはそれぞれ主が住んでいて、石など投げれば主が怒るに決っているからだ。
「主様、主様」
子供が呼びかけると「なんだい?」とそれぞれの沼から主が現れる。
主たちの姿形は、おじいさんのようにもおばあさんのようにも蛙のようにも見える。
「沼に沈む速さが違うという話は、本当ですか。わたしは試してみたいのです。綺麗な石を六ツ持って参りました。この石は主様に差し上げますから、どうか石を投げさせて下さい」
主たちは沼から出てきて子供の手を覗き込んだ。小さな艷やかな石を、主たちは大層気に入った。
「よいよい、投げてみろ。けれど、石の色がそれぞれ違うな。どの石をどの沼に投げるか決めねばならない」
沼の主は、なかなか欲張りなのだった。
そうして主たちが話し合っている間、主が不在になった沼はすっかり淀んでしまい、主たちはどの沼が己の沼かがわからなくなってしまった。