懸恋-keren-
超短編
2012年7月13日金曜日
兎の元服
寺には丸い窓がある。
そこには硝子も格子も入ってはいないが、通ることが出来るのは、元服した兎だけであるという。
中秋の名月、そこから兎は育った寺を出ていく。月に帰るのである。
まだ私は兎を見送ったことはない。
この窓を兎だけが通ることができると聞いたのは子供の頃だった。
何度も外に手を出そうと試みたが、強い風圧のような力で押し返されてしまうのだった。
昨日、兎が「元服しました」と報告に来た。次の満月で兎は行ってしまう。
明月院で。
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