空を自在に泳ぐ人魚は、それなのに翼が欲しかった。
「そんなに綺麗な鱗もあるのに」
人魚の身体は、お日さまを浴びるとキラキラと輝く。
「そんなに上手にお歌も歌えるのに」
人魚の歌声は、鈴のように澄んでいる。
「でも、空は泳ぐものじゃなくて、飛ぶものでしょ?」
そう言うときの人魚の目はいつも涙が溢れそうになる。
「それじゃあ、海で泳げばいいよ」
そんな声が聞こえたから、南の島のあるところまで、空を泳いできた。
ここは空が青くて、海も青くて、あおがあおすぎて。
でも、海に飛び込む勇気はない。海面近くまで降りたり、やっぱり空へ戻ってみたり。
ずっとそんなことをしているから、人魚は今、空を泳いでいるのか海を泳いでいるのかわからない。