2010年12月29日水曜日

黒猫を射ち落とした話

「星の欠片をピストルに込めてみな。美味いものができるぞ。こうして話しているだけで、涎が出てくるようだ」
喫茶店で隣になった老人が嗄声で囁いた。ポケットの中には、拾ったばかりの星が入っている。金平糖型で、握りこぶしくらいの星が。
「……何を撃つといいでしょうね。一番おいしいのは」
「そりゃあ、決まっているだろ、黒猫だよ」
早速、しっぽのない黒猫に逢ったけれども、そういえばピストルなんて持っていない。
代わりにパチンコで黒猫を射つことにした。
星も黒猫も嫌がるかと思えば、そうでもない。おとなしく射たれるのを待っている。
パチンコなんて子供の頃から下手だったから、四度目にしてようやく黒猫に命中した。
パシッと黒猫に星の欠片があたり、黒猫はふにゃりと塀から落ち、星の欠片は失速して転がった。黒猫は鼾を三回かいた後、去っていった。
星はもう輝かない。口に放り込んだ。美味い。
ただ、それを言葉にしたら、黒猫に当たった星の味、としか言いようがない。

2010年12月24日金曜日

A TWILIGHT EPISODE

明け方前のサンタクロースは、大変に急いでいた。毎年のことだけれども。
ようやく最後の子供にプレゼントを配り(中身は「キツツキが啄いた木の突付きカス」だ)。
家を出て、ほっとしたのも束の間、サンタクロースはサーチライトのようなものでパッと照らされた。まずい!
思わず顔を背けたが、騒がしくなる様子はない。そっと明かりの源をたどると、金平糖型の輝く物体が転がっていた。
ああ、星か。
星を老トナカイの角に引っ掛け、サンタクロースはそりに乗り込む。
朝焼けに照らされるサンタクロースたちの姿を、星の光が隠してくれるはずだ。

2010年12月22日水曜日

煙突から投げこまれた話

今夜の月は赤い。お月さまが酔っているせいだ。
仕方なく、背負って月まで送って行くことにした。
重たくて難儀していたら、サンタクロースに出会ったので、手伝ってもらった。
赤い月とサンタクロース。赤いセーターでも着てくればよかった。
ようよう月を送り届けると、「やあ!ありがとう。恩に着るよ」と、お月さまに背中を叩かれ、落っこちた。
いつものようにベッドに落ちるかと思っていたら、煙突だった。
ここは、サンタクロースが一軒目に訪れる予定だった家の煙突だそうだ。
「月のおせっかいはいつも迷惑なんだ」と、サンタクロースは笑っている。あまり迷惑しているようには見えない。
サンタクロースはまだプレゼントを置いていけないそうだ。そういう決まりらしい。
せっかくなので、子供たちの枕元に星の欠片を置いて帰った。

2010年12月20日月曜日

THE MOONRIDERS

16歳になったばかりの少年はある夜、自分が月を乗り回して宇宙を駆ける夢を見たのだ。
翌日、少年は、貯金でスクーターを買った。
少年は、街で「あの子は暴走族になった」と揶揄されたが、少年は暴走などしているつもりはないから、そう言われると、とても困る。
いつでも月を乗り回してもいいように稽古しているだけなのだ。

「いつか月に乗りたいなあ」
キラキラと目を輝かせて月を見上げる少年と、傍らでぽかんとしているお月さまの顔を交互に見比べてしまう。
「月は乗り物ではない」と、お月様が今にも言い出しそうなので、ポケットの中にあった星をひとつ、少年にプレゼントした。
金平糖型の角が一番尖っているのを選んだ。

スズキコージさんの個展、「スズキコージのSEX&ARABIC CITY展」に行ってきました。
タイトルの連作は、セクシーっていうか、そのまんまです。えろす。
ほかにも小ぶりの作品がたくさんあって、すごくかわいかった。
お値段も、ちょっと奮発すれば買えそうな値段でした。

丁度ご本人がいらっしゃって、少しお話できました。
吉祥寺のイラストレーション展も皆に勧めておくように言われたので、宣伝します(笑)。

「スズキコージのSEX&ARABIC CITY展」
【日時】
12.13(月)~25(土)
11:00~19:00(期間中無休・最終日17時まで)
【会場】
ゑいじう
新宿区荒木町22-38
TEL 03-3356-0098

「スズキコージイラストレーション展」
【日時】
12.14(火)~30(木) 10:30~19:30 無休
【会場】
APPLE HOUSE 2F ギャラリィ吉祥寺

2010年12月15日水曜日

無題

蚤のピケが飛び立ったあと、急いで駅に向かうと「ウォッチ、ウォッチ、ウォッチ」と言いながら階段を昇るおじさんがいる。おじさんは時計を落としながら階段を昇る。階段は終わらない。時計が落ちる。

月のサーカス

今夜はお月さまがいないな、と思いながら月を見上げる。
月にブランコを掛けて、とんぼ返りながら漕いでいるお月さまがいた。
世界一の空中ブランコ乗りも、この月のブランコには驚くに違いない。
しばらく見物していたが、雲がかかって見えなくなった。
お月さまの跡継ぎになったら、あれをやらなければならないのだろうか。

無題

「おれは蚤のピケ。ジャンプすごいぜ」そう言って蚤のピケは飛んで行った。見上げると、空が蝨出している。もうこんな時間だ。

無題

羊を数えてたら、羊の毛に棲む蚤のピケがやってきた。どうしよう。

2010年12月13日月曜日

電燈の下をへんなものが通った話

電燈の下をへんなものが通るが、誰に聞いてもそんなものはない、というので眼医者に行った。
医者は首を傾げるばかりで、「これをあげましょう。診療代はいりません」と
いって、金平糖型のものをくれた。
それは机に並んだ星たちよりは、少し小さいので星なのかどうかはよくわからない。

だが、電燈の下を通るへんなものは増えていき、いよいよ鬱陶しいと思っていると
金平糖型のものは、もっと小さく、いびつになっていたのだった。
しばらくして、欠片しかないくらいに減ってしまう頃になって、ようやく電燈の下をへんなものを、星が捕まえて食べるようになった。
星たちの食欲は旺盛で、数分もしないうちに、へんなものはなくなった。
好い医者に出会ったものだ。

2010年12月9日木曜日

かたつむりの旋律

僕の耳は聞こえすぎる。防音ヘッドホンを片時も外すことができないくらいに。
だから、囁き声の美しい子としか、友達になれない。

小さなメロディが聞こえたような気がしたのだ。
もっとよく聴きたくて、思い切って防音ヘッドホンを外した。轟音を掻き分け、細い絹糸のような、あのメロディを探す。
そのメロディは、紫陽花から聞こえていた。

「つまり、紫陽花の葉は、オルゴールのシリンダーみたいなもんさね」
と、かたつむりは言う。
「じゃあ、キミの殻をリズミカルに叩くドラマーは誰?」
「はて……? そんな音か聴こえるのかい?」
昨日の雨の残り香の仕業かもしれない。
「また聴かせてね」
ヘッドホンをしていないせいで、頭が痛くなり始めていた。帰らなくちゃ。
「おぅ、いつでもおいで」
帰り道、ちょっとだけヘッドホンが邪魔に感じた。

脳内亭さんの心臓タイトル案の案をお借りしました。

拍手コメント、ありがとうございます、雲梯さん(……)
ほんとだ、ひらがな……多そうで、多くないような?(笑)
心地よい漢字ひらがなバランスは、人によって違うのでしょうねぇ。難しいな。

2010年12月7日火曜日

踊るベーカリー

その小さなパン屋では、何もかもが踊っている。
店主もパンも、レジスターもトングも。店の奥を覗けば、オーブンもボウルも、粉も卵も踊っている。
愉快なことが好きな私は、パンを買う時には必ずその店に行く。味も悪くない。
ちょっとおかしなことといえば、何もかもが楽しげに踊っているというのに、店内が全くの無音だということくらいだ。店主のステップにも、レジスターのボタンにも、割れる卵にも、音がない。
店を出ると、音を確かめたくて、いつもスキップをしてしまう。

2010年12月3日金曜日

ココアのいたずら

ミルクパンで丁寧にココアを温めていたら、星がひとつ飛び込んでしまった。
慌てて取り出して、何事もなかったふりをして、友達に出したら、いたくお気に召したらしい。
うちに来る度に「ココアを作ってくれ」と頼まれるので、こっそり机の上の星をひとつ、鍋で泳がせる。
実際、ココアはやけにおいしくなるのだが、どういうわけだか星に訊いても、ココアに訊いても、教えてはくれない。

2010年12月1日水曜日

THE MOONMAN

そういえば、お月さまは、いつからお月さまなんだろう。
「さて、もうずいぶん昔のことだからなぁ。そろそろ引退してもいいかもしれない」
引退したら、月はどうなるんだ。
「もちろん、後継者を選ぶ。例えば、君とか」
その日、家に帰ってから長いこと、机に並んだ星たちを見つめていた。
星たちは、やけに静かだった。