「キスしてもいいですか?」
夜の散歩中、どこから現れたのか、目の前にきれいな女の人がいて、そんなことを言う。
「キスしてもいいですか?」
こちらが「イヤです」と答えても、キスをしてくるかもしれない、そんな表情。
「あの、キスをするのはいいのですけど、なぜキスをしたいのですか?」
彼女の話は、どうにも要領を得ない。いろいろと聞き出した話をまとめると、流星にぶつかった時に唇を奪われてしまったので、どうせならちゃんとキスをしてみたい、そういうことらしいのだ。
「それは、もっと、あなたが好きな人とするのがいいと思うのです。通りすがりの男なんかじゃなくて」
「だって、あなたはお月さまでしょう?」
ああ、この人は、見ていたのだ、押し出されて月から街を見下ろしていた時のことを。
「いや、違うのです。あれはちょっとした事故でした。本当のお月さまはこの人です」
ちょうどよくお月さまが通ったので、彼女に差し出すと、ためらいもなくキスをした。
それはあまりにもうっとりとしたキスだったので、夜空は慌てて雲で月を隠した。
再三お知らせしている豆本カーニバルが、明後日11日に迫りました。
出展者のブースのほかに、展示コーナーがありまして、そこで出展者のレア豆本や、コレクターズアイテムが並びます。
私は、「豆本はじめまして展」の時に一度だけ展示した「赤裸々」をこのコーナーに出します。それを主催の田中栞さんのブログで紹介していただきました。
記事中に出てくる細川書店というのは、戦後すぐの物のない時期に瀟洒な本を出していた出版社。もったいないお言葉で、ちょっとドキドキしています。