2010年10月22日金曜日

なげいて帰った者

チャイムが鳴り、玄関に出ると、老いた猫がいた。「ちょっといいか」
部屋にあげ、ミルクを出すと「温めろ」という。
ほんの少しだけ温めて出すと「熱い」という。
この老猫にはしっぽがない。昔昔、鋏で切られた話を延々と語って聞かせる。
声が枯れるとミルクを舐め、同じ話を三度ずつした。
帰るときに老猫はこうなげいた。
「近頃のしっぽがない猫ときたら、実にだらしない。きっとしっぽを切った人間が軟弱だったのだ、そうに違いない」
知らんぷりで老猫を見送る。