懸恋-keren-
超短編
2010年8月8日日曜日
食われた記憶
博学なM氏は、重い事典を抱えて歩き続ける。
道行く人に、ものを尋ねられることが多いM氏だが、事典を開くことはない。全て記憶しているからだ。
ところが先日、うっかりヤギに事典を幾頁か食べられてから、調子がおかしい。
破れた頁にあった事項を、すっかり忘れてしまったのだ。
悪い事に、その頁はMのページで、M氏の先祖についての項があったものだから、M氏は自分の名前も忘れたままに、歩き続けている。
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