2010年8月29日日曜日

月とシガレット

「歩きタバコはいけないよ」と掴んだ男の腕が、存外に軽くて、パッと力を弛める。顔を見れば、ハテどこかで見たことがあるような気がするが思い出せない。
男は「申し訳ない」と謝り、そのタバコを一本くれた。
タバコは喫まないと断ったが、まぁまぁと押し切られる。
家に帰り、月を眺めながら、そのタバコに火を着けると、桃のような甘い煙が立った。
しばらくすると、月の蓋が開いて、人が入って行くのが見えた。紛れもなくタバコをくれた人である。
皿に落ちた灰は、砂糖のように甘かったので、全部舐めた。