2019年5月12日日曜日

浄水と涙

氷とも違う、不思議な水の玉だった。口に入れた瞬間に水になった。
舌で水玉の感触を確かめたいと思うが、瞬時に水になってしまう。
「ずいぶんお疲れのようだ。……何か辛いことがあったようにお見受けします」
その人の話しぶりが、老ゼルコバに少し似ているような気がして、また涙が出そうになる。
「水は幾らでもありますから。賢い鳥さんもどうぞ」
と、次々と水の玉をくれた。鳥には、小さな水玉を。

「慣れない水、飲みにくかったでしょう?」
立派な身形の人だったが、気さくに隣に腰かけてきた。
「ここには液体がないのですか」
「いえいえ、浄水と涙だけです、こうして玉になってしまうのは。スープやお茶は、液体です。どうして浄水と涙だけなのか、研究者もずっと研究したままです。でも、意外と不便はありませんよ。水は口に入れば飲めるし、シャワーも慣れてしまえば気持ちのよいものです。どうですか? 我が家に来ませんか」
親切な人にすぐ出会える街は珍しい。幸運は幸運として受け取ろう。