左腕が擽ったいような、痒いような気がしたのは、1秒だったような気もするし、1時間だったような気もする。
そこはもう電話ボックスではなくて、鳥籠だった。
左腕の消えず見えずスタンプに押し当てていたのは真っ赤な電話機の受話器ではなくて、真っ赤な鳥の嘴だった。
真っ赤な鳥は何もかも真っ赤で、見たこともないような鳥だけれども、たぶん鳥なのだ。
見たことがないと言えば、鳥籠の外の景色もまた、見たことがなくて如何とも形容しがたい。
たぶんここは街の中なのだけれど、街の真ん中に巨大な鳥籠があって、公衆電話くらいの真っ赤な鳥がいて、そこに人が居ていいのだろうか。
鳥籠から、どうして出られるだろう?