派手なチェインソーを背負って、恋人が待ち合わせ場所にやってきた。繁華街を歩く人たちは、誰も気に留めていないようだけれど、ぼくに手を振る姿を見て、逃げ出そうかと一瞬思う。
交番のお巡りさんが、彼女を一瞥した。ひやりとしたけれど、お巡りさんの視線は、すぐに彼女を通り過ぎた。
チェインソーの刃は、よく見れば花なのだった。赤や、ピンクや白の、小さな花が並んでいる。
彼女は嬉しそうにチェインソーのエンジンを勢いよく掛けた。街に似つかわしくない轟音が響き、花と香りのシャワーがぼくたちに降り注ぐ。
「結婚しよー!」
叫んだのは彼女だった。拍手が起こる。プロポーズの先を越されてしまって、ぼくは戸惑う。ポケットの中の指輪を弄びながら困っているぼくの頬に、彼女がキスをした。しま
った、また先を越された。
2015.6 架空非行11号