2015年5月31日日曜日

五月三十一日 薬味

おろしニンニクとおろしショウガと粒コショウを大量に買った帰り道、どうやらどれも容器に穴が開いていたらしい。暑さに似合う、実にスパイシーな道路が、私の背後で湯気を立てている。

2015年5月22日金曜日

五月二十二日 眠気

歩きながら眠りそうになるくらい眠い。このまま寝てしまっては困るので、エイ!と電信柱を殴った。すると電信柱がグニャリ、眠ってしまった。驚いたけれど眠気が覚めたのは一瞬で、すぐにまた眠くなってしまった。

2015年5月20日水曜日

五月十九日 輪ゴム

その輪ゴムを踏んではいけません、と美しい人に言われて、飛び退けた。足元に、輪ゴムがあることすら気づいていなかったのだから。
「輪ゴムであり、輪ゴムではありませんが、輪ゴムです」
輪ゴムは、緑色をしていた。ただ落ちているように見えて、意思を持ってそこにあるような気がした。

2015年5月16日土曜日

五月十六日 玉ねぎ

玉ねぎが逃げるので、追いかけた。家に帰りたいと泣きながら転がっていく。こっちのスーパーへ、あっちのスーパーへ。売られていたスーパーから逆ルートで家に帰るつもりらしい。結局、玉ねぎは自分がどこのスーパーで売られていたのかわからなくなって、泣き出した。泣き疲れると、ただの道に落ちた玉ねぎになった。拾って、帰って、みじん切りにした。

2015年5月12日火曜日

五月十二日 サンドイッチ

ミックスサンドに、卵は無くてはならないものだろうか? いや、そんなことはない。私はゆでたまごがきらいなのだ。いつも卵サンドはウサギにくれてやる。今日のカフェのミックスサンドには卵は入っていなかった。とてもよいサンドイッチだ。ウサギはおもしろくなさそうだったけれど。


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2015年5月11日月曜日

五月十一日 のど飴

咳き込んでいると、小さなおじいさんが向こうからやってきた。女物の日傘を差している。今日はすばらしくよい天気だ。
「おまえさん。喉の調子がよくないようだ。これを進ぜよう」
のど飴だという。袋には、難しい漢字がたくさん書いてある。
あんまりあやしいので、近くの薬局で「これ、ありますか」と見せてみると、確かにそののど飴は売っていた。「とても効くと評判ですよ」と言われたので、買って帰った。喉は、きっとよくなるだろう。

2015年5月1日金曜日

山猫の注文

真夜中である。ブンブンと尻尾を振り回しながら、猫が近寄ってきた。
「ちょいと頼みがある」と、猫は言った。私は猫の言うことが理解できた自分が理解できない。猫を見下ろしたまま、立ちすくむ。
「まず、おれは、猫ちゃんじゃない。山猫である」
はあ。山猫がなんでここに。
「野暮用である」
相変わらず尻尾を振り回している。
「山猫は尻尾を高速回転させると、人語が操れるのだ。町の猫ちゃんにはできない技だ」
と、言うと、尻尾を止めて鳴いてみせた。
ニャー
「おれたち山猫は、誇り高き山の山猫。一度でいいから、かつお節を食べてみたい」
え?
どうやら「山猫は町の猫ちゃんよりも偉いから、猫ちゃんの食べるものを知らないわけにはいかない」という理屈らしい。
山猫は相変わらず何か盛んに話しているが、だんだんと尻尾の勢いがなくなってきて、ところどころしかわからない。
「ニャーちゃんとニャーがニャーかわいいニャーかつおニャー山猫だニャーニャニャー」
そう言いながら、山猫は通りがかった美人の白猫にフラフラと付いて行ってしまった。春である。

架空非行 第10号