2014年12月22日月曜日

十二月二十二日 犬

犬が自主的に眼科へ入っていった。まったく迷いなく、自動ドアが開き、犬は中へ入っていった。
検眼でもするのだろうか。犬の視力検査というのは、どうやるのだろう。
「いや、アレはサングラスを作りに行ったのだ」とウサギは豪語した。
「クリスマスのイルミネーションから目を守るためだ」というのがウサギの解説。
もっともなような、そうではないような。
犬が眼科から出てくるまで待っていようかと思ったけれど、それはやめた。


2014年12月19日金曜日

十二月十九日 古墳

通りがかった家の二階のバルコニーに、武人と馬の大きな埴輪が置いてあった。
「家の人が飾ったのかな」と言うと、「そうではない、ここはかつて古墳だったのだ」とウサギが低い声でつぶやいた。


2014年12月18日木曜日

十二月十八日 ケツノホ

座布団をお日様に当てると、ケツノホがふわふわと飛び出していく。
今日は風が強かったから、ケツノホがよく出た。
ウサギはケツノホが好きで、一緒に飛んでいきそうになるので、ベランダに縛り付けておかなくてはならなかった。
「ウサギ風邪引くぞ」と声を掛けても、上の空だ。仕方がない。


2014年12月10日水曜日

十二月十日 職人

右手に刷毛を、左手に竹棒を操る。
「職人になった気分でしょう?」とおだてられ、良い気分になった。
すると、調子に乗るなと言わんばかりに、刷毛の毛がズズズと伸びた。
腰を抜かした。




2014年12月9日火曜日

十二月九日 音拾い

砂粒のような小さな音を拾って、耳の中に落とす。


夢中になって繰り返したら、耳の中に砂時計が出来た。


 


奏でる。


 


刻む。



2014年12月5日金曜日

十二月五日 アルバム

写真というのは、実は饒舌でうるさいほどなのだ。


四年ぶりに引っ張りだしたアルバムは、ほこりを積もらせ始めていたけれど、


一度開いたら、写真たちが一斉におしゃべりを始めた。


「修学旅行の新幹線、車中でカップル誕生多数」


そんなゴシップ記事みたいなことを喋る写真は、アルバムからベリっと剥がしてやった。


ひと通りおしゃべりが収まると、ただの紙切れみたいなフリをする写真たち。もう騙されない。



2014年12月1日月曜日

十二月一日 郵便

郵便配達の人がやってきて、「お届け物です」と手渡してくれた。


きっと楽しみにしていた本だ。


ところが郵便配達の人は「きっとお師匠さんですね」と言った。


「おししょうさん」ではなく「おっしょさん」と発音した。


私は「え?」と言って、その場で開封した。


すると「急げ!」と言って、小さなおばあさんが走っていってしまった。


郵便配達の人は「私はお師匠さんを追いかけます。次のお宅に師走を届けなければいけませんので」と言って、やっぱり走って行ってしまった。


本は、ちゃんと入っていた。