「あなたが私を食べるのね」
バタークリームのバラからひょっこり現れたお姫様が言った。
ぼくが困っていると、事も無げに言う。
「私はケーキなのだから、あなたが私を食べるのは当然のことでしょう?」
ぼくはそれでもなかなか一口目を食べることができなかった。
「じゃあ、追いかけっこしましょう。私は逃げる。あなたも上手に私を避けながら食べて」
お姫様は楽しそうだった。バラのかげから顔を出したと思ったら、アラザンをこちらに向かって投げてくる。
「攻撃してくるとは聞いてないよ」
からかうとお姫様はキャッキャとまた隠れた。
とうとう、バタークリームのバラをひとつ残すだけとなった。
「おーい。食べちゃうよ」
声をかけてみたけれど返事はない。そのままバラをまるごと頬張ると、「美味しかったでしょう?」と声がした。
実のところ、味はよくわからなかった。お姫様の姿に夢中だったのだ。
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ケーキの超短編投稿作
7.フルールグラン 優秀賞受賞