2014年11月25日火曜日

十一月二十四日 針金ハンガーの世界

その世界ではすべてのものを針金ハンガーから創りだすらしい。


少年が針金ハンガーをグイッと引っ張って出来上がったのは、ボウガンだった。


「戦いがあるのか?」と尋ねると、「イヤ、ここは平和だ」と言って、もう一度グイッと針金ハンガーを変形させた。


ギターだった。少年の歌声が、モノクロの世界に響く。すべてが鉄線、それもまたよい。



2014年11月19日水曜日

バタークリームの姫君

「あなたが私を食べるのね」
 バタークリームのバラからひょっこり現れたお姫様が言った。
 ぼくが困っていると、事も無げに言う。
「私はケーキなのだから、あなたが私を食べるのは当然のことでしょう?」
 ぼくはそれでもなかなか一口目を食べることができなかった。
「じゃあ、追いかけっこしましょう。私は逃げる。あなたも上手に私を避けながら食べて」
 お姫様は楽しそうだった。バラのかげから顔を出したと思ったら、アラザンをこちらに向かって投げてくる。
「攻撃してくるとは聞いてないよ」
 からかうとお姫様はキャッキャとまた隠れた。
 とうとう、バタークリームのバラをひとつ残すだけとなった。
「おーい。食べちゃうよ」
 声をかけてみたけれど返事はない。そのままバラをまるごと頬張ると、「美味しかったでしょう?」と声がした。
 実のところ、味はよくわからなかった。お姫様の姿に夢中だったのだ。



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ケーキの超短編投稿作

7.フルールグラン 優秀賞受賞


2014年11月15日土曜日

十一月十五日 シンデレラ

職人は私の足に恭しく靴を履かせた。


それはぴったりに見えたのに、職人はなにかが気に入らないらしく、ブツブツ言いながら足を触る。


「作り直します」と職人はキッパリと言い、出したばかりの靴を慌ただしく箱に収めた。


ガラスの靴が、ショーケースに並んでいる。私の靴は、ガラスの靴でなくていいのだ。


でも、どんな靴を作るかは、職人が決めること。


シンデレラにさせられるのか、そうではないのか。


私はしばらく不安な日々を過ごす。



2014年11月9日日曜日

くす玉

六角の小箱を開けると小さな紅白玉が詰まっている。


宙に投げると、パカっと二つに割れた。なにやらおめでたい。


なかなか落ちてこないので、どうなるだろうと上を向いて眺めていたら、


突如、急降下。私の口の中に落っこちてきた。


たちまち蕩ける。ほのかに甘い。