2014年2月25日火曜日

地下鉄の鼠について

地下道を走るのは鼠と電車くらいなものだ。一度一杯やってみたいね。
地下暮らし二十年の男が鼠に話しかける。
「鼠、地下鉄に乗るなら切符が必要だ」
鼠は答 える。
「乗るんじゃない、囓るんだ。よい肴になる」
その日、世界中の地下鉄が走行不能に陥った。
地下世界に闇と静けさと鼠の歯があらんことを。
飯田橋駅で鼠を見た話。裏テーマ「酒持ってこーい」

奇行師と飛行師20

蝸牛男は「ギャー」と叫びそうになって既の所で息を呑んだ。
「まあまあ、そんなに驚くでない、蝸牛男。蟻地獄のじいさんがそろそろ奇人一行を連れてくるから、待っていなさい」
白髪の茸頭をふんわりさせると、キラキラと胞子が飛び出した。思わず後退る蝸牛男。
「いんや、これは胞子じゃないよ、蝸牛男。キラキララメパウダーだ。だいぶ規格外だけれども、やっぱり人間だし」とウインクする。
そういえば、蝸牛男はすっかりたまげてしまって声が出ていないのだが、茸仙人は蝸牛男の思うことに答えている。
「だってほら、仙人だし」
「おーい、蝸牛男!!」と鯨怪人の声が聞こえてきた。


2014年2月18日火曜日

奇行師と飛行師19

蟻地獄男爵の孫であるところの茸仙人へ逢いに、一行は歩いて行くことになった。
鯨怪人に乗っても、飛行師に乗っても、瘤姫に乗っても、木々の多すぎるこの森をうまく進むことができなかったからだ。
自然と蝸牛男は殿となり、奇行師の励ましの声も届かなくなり、ついにはひとりぼっちになった。
ノロノロと進む蝸牛男は、好都合だと思った。ぬめり気のある自分と、胞子をふりまくであろう茸仙人は仲良くなれそうにない、そう感じていたのだ。
「蝸牛男よ。まあ、そう言わずに。本物の蝸牛は本物の茸が好物だから、なんだったら食べてもよいぞ」
蝸牛男の前に茸頭の老人がウインクしながら現れた。


2014年2月10日月曜日

奇行師と飛行師18

「して、その尋ね人というのは?」蟻地獄男爵が奇行師に問う。
「ひゃっふヘイ! その名は、茸仙人!」興奮した奇行師は赤いハイヒールに頬擦りした。
「きのこせんにん?」蝸牛男には、なんだか嫌な予感しかしない。
「おいしいのかしら、茸仙人は」そういえば飛行師はなめこが大好物であった。
蟻地獄男爵は、ウィンクした。「茸仙人は、孫だ」
駱駝の瘤姫は、蟻地獄男爵の年齢を思って気が遠くなった。
鯨怪人は、そろそろ海が恋しい。


2014年2月4日火曜日

奇行師と飛行師17

「ここにいらっしゃるのが、蟻地獄男爵」と瘤姫が地面を指した。
湿った森の一部に乾いた土、サラサラとすり鉢状の穴、中からひょっこりと髭を生やした人が顔を出し、ウィンクしている。
「瘤姫、久しぶりですな」
一行は、蟻地獄男爵のウィンクに心が踊った。
「なんと、奇人のキャラバン隊。このじいさんも入れてくれるのか?!」
蟻地獄男爵は、一人ひとりと手を取り、握手し、そしてウィンクをした。
奇行師がお礼に赤いハイヒールを頭に乗せて逆立ちをしてみせると、蟻地獄男爵は笑い転げ、自分の掘った蟻地獄に滑り落ちそうになったので、飛行師が慌てて救助した。
「時に、男爵。我々は実は人を探しているのです」
と、奇行師は言った。
「奇人集めをしているとは思っていたけれど、探している人がいるなんて聞いてないよ」と蝸牛男は思ったが、黙っていることにした。